心理学

【歴史を変えた心理学㉖】記憶に関する7つの罪

心理学

この記事では、著書“図鑑心理学”と自分が学んできた内容を参考に、歴史に影響を与えた心理学についてまとめていきます。

    

心理学が生まれる以前、心や精神とはどのようなものだったのかに始まり、近代の心理学までをテーマとして、本書から興味深かった内容を取り上げていきます。

    

今回のテーマは、「記憶に関する7つの罪」についてです。

 

 

ダニエル・シャクター

私達の脳にはなぜ“忘れる”という機能があるのでしょうか。

 

忘れてはいけない用事を忘れてしまうこともあれば、忘れたいはずのトラウマが記憶に刻み込まれていることもあります。

 

記憶できる脳の容量をあけるためという説や、記憶の整理のためという説、危険度に優先順位をつけるためという説など、様々な理由が考えられていますが、いまだ核心には至っていません。

 

20世紀後半、記憶の保存や忘却、またはそれに関する脳のエラーを解明しようとした心理学者がいました。

 

アメリカの心理学者ダニエル・シャクターです。

 

ダニエル・シャクター(1952年~)

 

1982年に彼は、記憶はどのように保存され、何が想起され、何を間違えるかについて強いインパクトを残す研究結果を発表しました。

 

シャクターの記憶の研究は、エンデル・タルヴィングの指導の下に始まりました。

 

タルヴィングは、短期記憶や長期記憶など、記憶がどのように体制化されているのかについて最初に図解した研究者です。

 

記憶のシステムは、短期記憶のフィルターを通り抜け、長期記憶に到達する意味のある重要な情報に基づいていました。

 

しかし、シャクターが関心を示したのは脳のエラー、つまり記憶が間違ってしまうときのことでした。

 

学校の授業で教わった教科書の中身は覚えていないのに、その時先生が話していた教科書とは関係のない小話などは覚えている……、なんて経験はありませんか?

 

私たちは、意味のないことや関連のない情報は覚えているのに、有用な情報を必要とするときに、なぜ思い出せないのでしょうか。

 

シャクターは、こういった記憶の乱れには、七つのエラーが関係していると主張しました。

 

 

記憶に関する7つの罪(The Seven Sins of Memory)

  

①物忘れ:Transience

物忘れは、その名の通り記憶が薄れてしまうというものです。

家の鍵をどこかに置き忘れるといったものが当てはまります。

鍵を置いた場所の重要性を十分に認識していないため、どこに置いたのかを忘れてしまうことから生じてしまう記憶のエラーです。

覚えていたはずのクラスメイトの名前を忘れてしまうといった、時間の経過とともに薄れていく記憶も“物忘れ”の例です。

  

  

②不注意(上の空):Absent-mindedness

不注意は、注意力の欠如が原因です。

記憶すべき時に注意を払わなかったせいで、記憶の定着が上手くいかなかった状態が挙げられます。

授業中や会議中などの真剣な場だとしても、近くで救急車やパトカーが通り過ぎるとどうしてもそちらに気を取られてしまうことがあるのもこれです。

  

 

③妨害:Blocking

妨害は、ある事実を思い出せないときに、それに代わって、異なる記憶が思い出されるものです。

いつもなら名前が出てきそうな知り合いと街中でばったり出会ったとき、すぐに名前が出てこず、それっぽい名前しか思い出せない状態が当てはまります。

喉まで出かかっているのに思い出せないことを舌先(したさき)現象と言いますが、その状態も“妨害”の罪によるものです。

 

 

④混乱(誤帰属):Misattribution

混乱は、間違った形で記憶してしまう(誤帰属)ことを言います。

つり橋効果がいい例で、つり橋で異性と出会ったとき、心臓の鼓動が早まる理由を、つり橋による恐怖からくるものなのか、タイプの異性と出会ったからなのかを脳が区別できないことからくるものです。

 

 

⑤暗示:Suggestibility

暗示は、後付けの情報や誘導尋問によって記憶がゆがめられてしまうことをさします。

あなたが何かの事件で事情聴取を受けたとします。

そのとき「あなたが目撃したのはこの写真の男性ですよね」と聞かれると、例えその男性を知らないとしても「そうかもしれない……」程度には思うでしょう。

その後、時間が経つにつれて事件が明るみ出てくると「あの男性が犯人かもしれない」と思ってしまったりするパターンたそれに似た記憶の処理が“暗示”になります。

 

  

⑥バイアス(偏見):Bias

バイアスは、ある出来事についての自分の気分や感情、それに伴う無意識などによって記憶が歪められることをさします。

自分が嫌いな本を読んでいる人に対して、「なんとなく嫌な人」と決めつけて記憶してしまうのも“バイアス”の例です。

 

  

⑦持続性:Persistence

持続性は、忘れたくても忘れられない記憶がしつこく意識に入り込んでくることを指します。

一般的にトラウマと呼ばれるものに強いストレスを感じたり、心的外傷後ストレス障害(PTSD)となった際の出来事がフラッシュバックすることも“持続性”による記憶の罪です。

 

また、ダニエル・シャクターは、これらの記憶のエラーについてインタビューで答えています。

 

インタビュー動画内で彼は、「こういった記憶の欠陥は、記憶を上手く機能させるための代償のようなものである」と述べています。

 

特に、持続性(Persistence)によってトラウマなどが呼び起こされることは、将来、似たような経験を避けるためであると考えられています。

 

 

まとめ

・シャクターは、記憶の保存とエラーについて研究し、「記憶に関する7つの罪」を発表した

・彼は、「記憶の欠陥は、記憶を上手く機能させるための代償のようなものである」と述べている

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