心理学

【歴史を変えた心理学㉓】人の行動は立場と状況で変わる 〜スタンフォード監獄実験〜

心理学

【前回記事】

 

この記事では、著書“図鑑心理学”と自分が学んできた内容を参考に、歴史に影響を与えた心理学についてまとめていきます。

   

心理学が生まれる以前、心や精神とはどのようなものだったのかに始まり、近代の心理学までをテーマとして、本書から興味深かった内容を取り上げていきます。

   

今回のテーマは、「スタンフォード監獄実験」についてです。

  

  

フィリップ・ジンバルドー

フィリップ・ジンバルドー(1933年~)

 

フィリップ・ジンバルドーはアメリカの心理学者で、1971年に発表したスタンフォード監獄実験でよく知られています。

 

1933年3月23日にニューヨーク市で生まれた彼は、ブルックリン大学に通い、修士号を取得、1959年にイェール大学で心理学の博士号を取得しました。

 

その後、ニューヨーク大学、コロンビア大学で心理学教授として教鞭を執った後、1968年にスタンフォード大学の教員になり、2003年に退職するまで働きました。

 

ジンバルドーは、何十年にもわたる心理学の研究の中で、社会的適合や内向的性格の克服(シャイネス)、軍事社会化まで、さまざまなテーマをカバーしてきました。

 

中でもやはり、1971年にスタンフォード大学心理学部の地下室で行われたスタンフォード監獄(刑務所)実験が最も有名でしょう。

 

人が誰しも、置かれた状況によって怪物になるということを知らしめた実験であり、実験自体わずか数日で中止を余儀なくされたというインパクトから、研究の題材だけでなく、テレビ番組や映画でも取り上げられるほどの爪痕を残しています。

 

では、ここからその実験について触れていきます。

 

 

スタンフォード監獄実験

 

研究の参加者は、模擬刑務所で「看守(警備員)」または「囚人」として行動するようにランダムに割り当てられた24人の男性大学生でした。

 

片方の12名は刑務官(看守)役、他方の12名は受刑者(囚人) 役となりました。

 

設定では、ある日、12人の囚人役は事前の警告なしに、夜明けに行われた強制捜査によってカリフォルニアのパロアルト市警に逮捕されました。

 

容疑者として扱われた彼らは、権利の告知と共に警察署に連行され、刑務所(スタンフォード大学の心理学部の地下室)に移送されました。

 

移送先で投獄されると、囚人は看守の管理下に置かれ、ジンバルドーの指示により看守は脱衣検査を行いました。

 

また、囚人に対しては氏名の代わりに割りふられた番号で呼び、自由がないことの象徴として、片方の足首には鎖がつながれていました。(囚人役には、“辞めたいときに辞める”という権利が与えられています

 

対照的に、看守には軍服を着せ、手錠、警棒、笛をもたせ、囚人とのアイコンタクトを避けるためにサングラスをかけさせました。

 

看守は一日24時間監視しました。

 

ジンバルドーと実験チームは、監視カメラで何が起こるかを観察していました。

 

するとまもなく、看守役は残忍にふるまうようになりました。

 

彼らは、囚人に食事や衣服を与えるのを拒否し、下劣なゲームで恥をかかせたり、素手で便器を洗うように指示されたりと行動がエスカレート。

  

ついには禁止されていた暴力まで振るうようになったため、関係者が生徒の保護者らに報告。

  

ジンバルドーはなおも実験を続けようとしましたが、数人の囚人が心的トラウマとなって離脱し、ついには弁護士が出てくる始末となったことで中止が宣言されました。

 

本来は2週間の実験予定でしたが、半分にも満たない6日時点までが記録として残されることになりました。

  

幸いなことに、参加者が長期的な精神に対する弊害を被ることはありませんでした。

 

これらからジンバルドーの出した結論は、“いたって普通の人間だったとしても、置かれた立場や状況によって、道徳観が薄れ、道義を外したような行動をとる”ということでした。

 

 

実験の過剰演出疑惑

実はこの実験、過剰な演出が加わっているのではないかという疑惑が出ています。

 

というのも、記録された看守室での会話の中で、心理学課の学生であるデイヴィッド・ジャフィーとジンバルドーが、「実験のためにもっと荒々しく振る舞うように」と指示をしていたことが明らかになったからです。

 

つまり、自然な実験結果ではないということです。

 

これに対しジンバルドーは、「本物の看守はもっと厳しく、職務怠慢は上司から呼び出されたり、降格または解雇の対象となる」と述べ、実験にリアリティーを出すためのものであると主張しています。

 

また、看守役の中には“暴力脱獄(1965年制作)”という映画の暴力的な看守を真似たことが、実験の看守役の暴力的な行動を引き起こしたという要因も排除できず、実験の過程や結果に問題があることも指摘されています。

 

とはいえ、そういった映画などのフィクション作品の影響を受けたステレオタイプ(一般的に浸透している先入観や思い込みのことです)的な行動も、一種の研究材料としても捉えられることから、この研究も全く間違いや無駄ではないといえます。

 

少なくとも、ジンバルドーの研究は、上から指示や周りの暴力的な行動は、他の人にも伝播するという例を示すものと解釈できます。

 

ちなみに彼はニューヨーク州の高校時代、ミルグラムと同級生でした。

 

心理学の同じ分野、似た実験で共に成果を残したこともなんとも面白い共通点です。

 

 

まとめ

・ジンバルドーは、学生を「警備員(看守)」と「囚人」に分けて生活させた

・日が経つにつれて、看守は看守らしく、囚人は囚人らしく振る舞うようになった

・禁止されていた「暴力」が行われるようになったことから実験は中止された

・ただし、実験が全て自然に行われたものではなく演出の疑惑もある

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