【前回記事】
この記事では、著書“図鑑心理学”と自分が学んできた内容を参考に、歴史に影響を与えた心理学についてまとめていきます。
心理学が生まれる以前、心や精神とはどのようなものだったのかに始まり、近代の心理学までをテーマとして、本書から興味深かった内容を取り上げていきます。
今回のテーマは「B.F.スキナーと行動心理学」についてです。
バラス・スキナーと条件づけ
バラス・フレデリック・スキナーは20世紀中期から後期にかけて活躍したアメリカの心理学者です。
行動分析学の創始者とされ、自ら思想を“徹底的行動主義”と読んでいました。
行動主義の解説に入る前に、まずは彼の生涯について見ていこうと思います。
バラス・フレデリック・スキナーは1904年3月20日、ペンシルベニア州サスケハナの小さな町で生まれました。
父親は弁護士で、比較的裕福な家庭で育ちました。
幼い頃のスキナーは工作に興味をもち、さまざまなガジェットや仕掛けを発明したりしながら遊んでいました。
高校時代になると彼は“英国経験論”で有名なフランシス・ベーコンに影響を受け、科学的推論に興味を持ち始めました。
フランシス・ベーコンは帰納法によって経験論を体系化しており、“事実を見て理論を積み上げていけば、いつかは世界の核心にたどり着ける”という考えを主張していた哲学者です。
【帰納法の例】
・ソクラテスは死んだ
・プラトンは死んだ
・アリストテレスは死んだよって人は死ぬ
・Aの象は鼻が長い
・Bの象は鼻が長い
・Cの象は鼻が長いよって象の鼻は長い
など見える事実を根拠に原則を導いていきます。
この、事実を積み上げていく考え方は、彼の生涯のテーマとなる行動主義に大きく影響を与えるものとなっていきます。
その後の彼は1926年にハミルトン大学で英文学の学士号を取得し卒業。
文学の知識を活かそうとプロの作家を志しましたが、大きな成功をつかむことができませんでした。
そこから2年ほど経ったころには自分の専門性の方向転換を考え直し、ハーバード大学に入学します。
1931年にハーバード大学で博士号を取得した後、同大学で研究者として職を得ながら心理学の研究に没頭していきます。
ハーバード大学時代で彼は、オペラントコンディショニング装置と呼ばれるものを開発しました。
この装置は、現在ではスキナーボックス(スキナー箱)やオペラント実験箱として知られており、ハトやラットなどの動物に対して条件付けを行ったり、その他の行動研究を調べるために使われています。
ソーンダイクの問題箱を参考に開発されたこの装置によって、環境や刺激が動物にどのような影響を受けるのかを細かく研究できるようになりました。
スキナーはげっ歯類や鳥類を対象に研究を進め、1938年には“生物の挙動”と題し、オペラント条件付け(報酬や罰に適応して自発的に行動を変えること)の研究結果を発表しました。
彼の研究は“パヴロフ犬”と比較されることが多いですが、パヴロフは刺激に対する不本意な反応を研究したのに対し、スキナーは環境に対して学習された反応が含まれている点で差別化されています。
プロジェクト・ピジョン
1939年に第二次世界大戦が勃発すると、動物を兵器として使用する研究が行われるようになりました。
この頃ミネソタ大学に在籍していたスキナーは、条件づけを行ったハトをミサイルの方向指示装置として使う実験「プロジェクト・ピジョン」を任されました。
ミサイルの前部にはレンズがあり、ターゲットの像が内部のスクリーンに映し出されるようになっています。
内部にはオペラント条件づけによって訓練されたハトがおり、ターゲットの像を認識すると、くちばしでスクリーンをつつくよう訓練されていました。
スクリーンの中央がつつかれた場合は、ミサイルは真っ直ぐに飛び、中心からずれた場所がつつかれた場合には、その方向にミサイルの向きが変わるような仕掛けとなっています。
ハトの訓練は上手くいったものの、他の兵器の研究に資金を割くべきだという意見が強く、次第に研究費も削られていくことに。
後にアメリカ軍が世界初の自動誘導爆弾ASM-N-2 BATの開発に成功したことで、プロジェクトは事実上の中止となりました。
戦後、スキナーは、子どもの学習を研究するための教育機械を開発するなど、自らの子どもの成長に合わせて教育に力を入れるようになりました。
彼は後にThe Technology of Teaching(1968年)などを執筆しています。
1960年代後半から70年代初頭にかけて彼は、自身の行動主義の集大成にもなる“自由と尊厳を超えて(Beyond Freedom and Dignity)”を執筆。
彼は本書にて、「人間の行動は環境と刺激に対する反応である」ということを主張しており、人間には自由意志や個人の意識がないことが記されています。
心理学において重要とされる、心や人格などを排除したこの考え方は、心理学者の批判の的になることもあれば、大きな発見へとつながることもにもなっていきます。
スキナーは晩年になっても行動心理学の分野で活躍し続け、一連の自伝で彼の人生と研究を記録することに取りかかりました。
しかし、1989年、彼は白血病と診断され、翌年には襲い来る病魔から逃れることができず、1990年8月18日にマサチューセッツ州ケンブリッジの自宅で死亡しました。
スキナーの業績に基づいた実践理論は現在、未発達児の行動支援やカウンセリング、組織における人材教育や動物の訓練など幅広く活用されるまでになっています。
まとめ
・スキナーはげっ歯類や鳥類を対象に研究を行い、オペラント条件付けを発表した
・オペラント条件付は、報酬や罰に適応して自発的に行動を変えること
・世界大戦時には、この条件づけを利用した兵器も考案された
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