記憶や思考力が低下し、生活の質が大幅に下がってしまうアルツハイマー型認知症。
最終的には通常の生活さえも困難になってしまう恐ろしい病気です。
食品や調理器具からの金属がアルツハイマーを引き起こす可能性があることは、ニュースで定期的に懸念されています。
今回の記事では、“特定の調理器具を使い続けることでアルツハイマーが促進させられてしまうかどうか”という研究についてのお話しです。
2023年2月24日にScience Alertに掲載された記事と、付随する研究をまとめていきます。
参考記事)
Is Your Cookware Putting You at Risk of Alzheimer’s? An Expert Explains.(Science Alert)
You’ve read the scary headlines – but rest assured, your cookware is safe(The Conversation)
Metals, aluminium and dementia(Alzheimer’s Society)
金属製の調理器具とアルツハイマーの関係
結論から言うと、現時点では金属製の調理器具や水道水などを介した金属と接触が、アルツハイマー病の発症リスクを高めるという証拠はありません。
過去に行われた研究では、天然に存在する金属とアルツハイマー病の発症、または進行との間に何らかの関係がある可能性が高いことが示されています。
しかし、この関係が実際にアルツハイマー病を引き起こすかどうかはまだ証明されていません。
また、薬を使って脳内の金属を減らしたり、暴露を減らしたりしても効果があるかどうかは不明です。
これらの金属は、私たちの脳を健康に保つに不可欠であるため、脳内に含まれる微量な金属量と病気の発症前後の変化に関するさらなる研究が必要です。
以下に、各媒体の記事から抜粋してまとめます。
天然金属とアルツハイマー病
亜鉛、銅、鉄などの金属は私達の体に自然に存在します。
微量の金属は、エネルギー生産、酸素の移動、神経伝達など私たちの脳や体が適切に機能するために不可欠です。
これら少量の微量の金属は、食品から摂取することができますが、銅製のカップなど食品以外の器具などからも体内に摂取されることもあります。
多くの金属は腎臓によって排出されますが、臓器不全や高用量の暴露によって腎臓が十分に機能できなかった場合は、これらの金属が脳に沈着する可能性があることも示されています。
銅・鉄・亜鉛
銅、亜鉛、鉄は脳と天然金属の関係について多く研究されている分野です。
1953年、高レベルの鉄がアルツハイマー病患者の脳内に存在することが報告されました。
それ以降、銅や鉄などの金属が脳内のアルツハイマー病の特徴的なタンパク質(アミロイドやタウ)に関連するという研究結果が報告されてきました。
この特徴的なタンパク質は、アルツハイマー病患者の脳にアミロイド斑やタウのもつれとして呼ばれる塊として現れ、脳に何らかの損傷を引き起こすと考えられています。
一方、適切な量の亜鉛はアミロイドタンパク質を脳に害の少ない形に変え、アミロイド斑の毒性効果を減らすことも示されています。
動物モデルの細胞を使用した実験でも、過剰な量の銅・鉄・亜鉛によって、斑やもつれを引き起こす可能性が示されていますが、これは必ずしもそれらが病気を引き起こすという意味ではありません。
活性酸素と金属
亜鉛ではなく銅や鉄も、脳内の“活性酸素(ROS)”と呼ばれるものの発生に関与しています。
これらは化学反応によって変化した酸素分子です。
活性酸素は細胞伝達物質や免疫機能としての働きがあり、私たちの身体の働きを正常に保つうえでも不可欠な存在です。
しかし、必要以上に増加したレベルでは有害であることが知られており、細胞や皮膚の老化や脳神経疾患などにも関与するとされています。
適度な睡眠、運動やバランスのとれた食事などによって活性酸素が増えることを阻止することが効果的であり、食事においては活性酸素を取り除くことができる抗酸化物質が健康に有益であると考えられています。
活性酸素は、アルツハイマー病発症メカニズムの生起の要因であると考えられています。
アルツハイマー病患者の脳では活性酸素のレベルの上昇が見られ、有害なアミロイドは、活性酸素生産を増加させることが示されています。
亜鉛は、銅の代わりにアミロイドタンパク質に結合することで、活性酸素種の生成が減させ、脳を保護することが示されています。
これらのように身体を健康に保たせるために、摂取された金属類の管理は身体によって厳密に制御されています。
これらのプロセスの中断は様々な理由で発生する可能性があります。
アルツハイマー病患者の脳に見られる金属の増加が、病気を引き起こすかどうかはまだ明らかではありません。
しかし、天然に存在する金属とアルツハイマー病との間には関係があるようです。
アルミニウムとアルツハイマー病
1965年、ある研究では、非常に高用量のアルミニウム注射されたウサギの脳に有害なタウタンパク質の変異を発見しました。(現在ではこの結果も疑問視されている。)
これにより、缶、調理器具、加工食品、さらには水道水からアルミニウムが認知症を引き起こす可能性があるという憶測が飛び交いました。
高用量のアルミニウムがタウタンパク質のもつれを誘発し、アミロイドレベルを上昇させることは確かですが、この実験は、人が食品やアルミニウム調理器具などを通じて体内に入る可能性のあるレベルを遥かに超える暴露にのみ見られました。
この研究が報告されて以来、アルミニウムとアルツハイマー病の関係について多くの研究が行われてきました。
しかし、人間が通常使用する量のアルミニウムがアルツハイマー病の発症に関係していることを確認できた研究や研究グループはまだありません。
調理器具による害
調理器具には鋳鉄、ステンレス鋼、銅、焦げ付き防止加工、セラミックなど様々な種類のものがあります。
よほど古い状態であったり、痛々しいほどの傷が付いている場合でなく、ある程度最新のものを購入する場合は、概ねそれらは全て安全です。
最近になってよく指摘されるのが、ポリテトラフルオロエチレンでコーティング(PFTE)された焦げ付き防止機能のあるフライパンです。
いわゆるテフロン加工された調理器具を指します。
このタイプの器具に対して多くの人から懸念の声があげられたのは、ペルフルオロオクタン酸(PFOA)が使用されていたためです。
各国での規制が高まり、調理器具において現在ではほとんど使用されることがない化学物質です。
またテフロン加工においては、熱分解でコーティングが剥がれ、ヒューム(微細な粒子)になった物質を吸い込むことで健康被害があるとも言われています。
このテフロン加工の劣化は、260℃以上に加熱すると起こりますが、一般家庭の通常の料理においては260度以上に温度が上がることはほとんどありません。
注意するとすれば、空焚きによる温度の上昇や、傷がついたフライパンを使うことです。
例えばベーコンやウィンナーだけをフライパンの上で熱して調理することはあるでしょう。
その際、食材が接触していない部分は空焚きと同じ状態になるため、加工が剥がれてしまうことがあります。
そのため少量の水などを入れてボイル気味に調理するなど工夫をすることをオススメします。
それでも気になる方は、発生した粒子を吸い込まないように、換気扇を常に回しておくと、より安心でしょう。
さらにそれでも……という方は、鋳鉄製の鍋やフライパンなどがオススメです。
まとめ
・調理器具などによってアルツハイマー病の発症リスクを高める証拠はない
・基準をクリアした比較的最新の調理器具であれば、なおさら気にするほどではない
・テフロン加工による害が気になる場合などは鋳鉄された調理器具等を意識的に選ぶと良い
人間はリスクの評価というものがとても苦手な生き物です。
損失回避の心理によって、自分に被害が及ぶかもしれないことについてはリスクを過大評価してしまう傾向もあります。
一方、リスクを学ぶ意識があれば、周りが恐れている中、自分は得することも可能です。
そんな人間の心理の側面に触れることができる、記事でもありました。
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