【前回記事】
この記事では、著書「ひと言」で相手の心をつかむ ことばの心理術 フレーズ辞典から、日常で使える言葉の心理をまとめていきます。
主に心理学で使われる用語やその使い方に焦点を当て、ためになったと思ったものを優先的にピックアップしていきます。
前回は部下に対する声のかけ方についての記事でした。
権威的な組織形態が薄れている現代のコミュニティでは、高圧的なコミュニケーションはかえって逆効果なことを学ぶことができました。
今回は部下とのコミュニケーションから派生し、トラブルの対応の仕方について、心理学の用語と一緒にまとめていきます。
部下がトラブルを起こしてしまったときや、自分がミスをしてしまった際の対応の仕方を知ることができます。
社会的欲求
会社で部下ミスをしたとき、つらつらと言い訳を並べられてイライラしたような経験はありませんか?
誰しも言い訳を聞くのは気持ちが良いことではありません。
それを聞いたところで、ミスをした結果は変わりませんし、本当の理由を把握しているかどうかもわかりません。
保身のために嘘をつくこともあります。
それを聞かされた上司は、「言い訳はいらん」と突っぱねてしまうこともあるかもしれません。
しかし、部下の立場になって考えてみると、ミスを犯してその言い訳さえ聞いてもらえなかったら、自分の存在を無視されたようで、大いに傷つくでしょう。
人は誰でも誰かに認めてもらいたいという、“社会的欲求”を持っています。
部下の様子が誠実であれば、どんなくだらないと思う、言い訳にも耳を傾けてあげましょう。
「どうしてこうなったのか教えてくれないか」と声をかけると向こうも話しやすくなるかもしれません。
「ここで話せないことがあれば、紙に書いて後で教えてくれ」というのも効果的でしょう。
大切なことは、部下に最後まで話をさせ、それから自分の意見を述べるようにすることです。
一人の人間として認めて話をすれば、部下の社会的欲求も満たされ、具体的なミスの対応策も出てくるかもしれません。
何より部下にとっては言い訳を真剣に聞いてくれて対処方法を考えてくれる上司として、人間関係が築けるでしょう。
従属の効果
従属の効果とは、自分が相手に従属させられていることから生じる心の動きを指します。
社会人の最低限のマナーは“挨拶”と“時間を守る”ことだと言われます。
しかし、団体旅行で必ず集合時間に遅れる人がいるのと同じように、時間を守れない人は、職業年齢を問わず多いものです。
遅刻は待つ人を怒らせたり、予定が狂ったりして周りの人に多大な迷惑をかけますが、実はそれ以上に心理的な問題が潜んでいます。
それは待たされている人が「私は軽く見られている」という屈辱感を抱かせてしまうことです。
この屈辱感は、従属の効果が表れたものです。
誰かに待たされているということは、待つことを強制されているということです。
これは、相手より低い地位に置かれていることに対する屈辱感が芽生えてしまいます。
上司が部下を待たせる分にはさほど問題になることはありません。
問題になるのは、部下が会社の上司や取引先など目上の人を待たせる場合。
そして、会社の同僚同士など、地位が対等の人を待たせる場合です。
だから待たせた側は、従属の効果によって生じた負の感情をいち早く打ち消さなければなりません。
待たせた側は、その場に到着したら何より先に「遅れてすみません」と詫びなければなりません。
このとき、謝り方が丁寧であればあるほど、相手が感じる不当に侮辱されたという感覚を消し去ることができます。
どんな理由があれ、「電車が遅れてしまったんだ、こっちは悪くない」という態度を見せてはいけません。
もしどうしてもその理由を伝えたい場合は、謝ってその場が落ち着いてしばらくしてからです。
本書では、待たせた時のお詫びの言葉選び方が秀逸だった例を、時の総理大臣原敬の例を出して述べています。
原敬の例)
原敬は、面会に訪れる多くの人々に対し、面会の順番が最初だった人にはこう言っていました。
「あなたとは真っ先に話をしたかった」
面会の順番が最後になってしまった人には、こう言っていました。
「あなたとはじっくり話したかった」
待たせてしまったことを言葉で巧みにフォローしていたそうです。
原敬にまでこう言われれば、例え長い時間待たされたとしてもその面会者はさぞ自尊心をくすぐられたことでしょう。
遅れたらしっかり言葉にして謝るということは、従属の効果を打ち消すために必要なことなのですね。
迎合のストラテジー
相手から好意や高い評価を得るために、相手の意見や行動に自分の行動を合わせる対人戦略を“迎合のストラテジー”と言います。
仕事の進め方で、同僚とちょっとした議論になってしまう。
そんなシチュエーションは至る所で見られます。
こちらはそれほど気にしてなかったけど、同僚は根に持っている様子がある。
こんな時、関係修復に役立ついい方法があります。
それが迎合のストラテジーです。
その同僚が残業で忙しそうなら「手伝いましょう」と声をかけてみたり、会議の時に同僚の意見をフォローする発言をしてみたり、ちょっとした行動を共にしたりといった具合です。
相手の行動や意見に同調することによって、反感を弱めることができます。
迎合のストラテジーには次の4つの種類があります。
①称賛ストラテジー
②同調ストラテジー
③自己高揚ストラテジー
④贈呈ストラテジー
①称賛ストラテジー
称賛ストラテジーは、その人の意見や行動を褒めることです。
人に褒められると褒めてくれた人に対しては反感を抱きにくいという心理的効果があります。
②同調ストラテジー
同調ストラテジーは、相手の意見や行動に同意したり、行動を共にすることです。
自分に同調してくれたり、同行してくれる人に対しては人は好感を持つという心理的効果があります。
③自己高揚ストラテジー
自己高揚ストラテジーは反感を持っている人に対して自分の魅力をアピールし、「なんて素敵な人だ」と思わせる戦術です。
重要なプレゼンの時には身だしなみを整えたり、誰かと会うときや、デートをする時にお洒落をすることは、実はこの自己高揚ストラテジーを実践しているのです。
④贈呈ストラテジー
贈呈ストラテジーは贈り物で相手の気持ちを和らげる作戦です。
人は自分の好みのものをプレゼントされると弱く、嫌われているなと思う人への贈り物は、反感を好意に変えるための効果的な方法になります。
これらを上手く駆使すれば、対立する相手の意識を変えることも、上司や取引先からの評価をより良くすることもできるでしょう。
まとめ
・言い訳だとしてもしっかり聞いてあげて、社会的欲求を満たす
・自分が相手の行動を制限してしまった時には、しっかり謝って従属の効果による負の感情を打ち消す
・迎合のストラテジーで関係をコントロールする
学校に通っていた頃、「言い訳をするな」とよく言われたものです。
今になって考えてみると、自己保身のための言い訳は確かに必要ないと感じます。
しかし、ミスを自覚して、次どうしたらいいかを考えるための言い訳であればとても有意義な意見と考えることもできます。
誰かの言い訳を聞くというのは、そこから対応策を見つけるためのきっかけとして有効な手段でもあります。
頭ごなしに「反省しろ」と叱るのは、次ミスした際に隠す可能性も出てしまうため、やはり、言い訳をしっかり聞くというのは、組織をより良くするためには効果的な手段であるということですね。
【次回記事】
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