ヴィーナス
ヴィーナスといえば、サンドロ・ボッティチェリの描いた“ヴィーナスの誕生”が有名です。
それまではタブー視されていた女性の裸を表現した“恥じらいのポーズ”は、ルネサンス期を経て多くの画家の参考にされていきます。
今回はそんな人気の題材であるヴィーナスの絵に触れて行きたいと思います。
美術としてのヴィーナス
ローマ時代の頃、ポンペイの壁画には横たわるヴィーナスが描かれていました。
女性の陰部の暗喩と思われる貝殻や、裸の女性を美術として描いたこの壁画。
やがてキリスト教の厳格な教えが浸透すると、異教の神であるヴィーナスは次第にその影を薄めていきました。
いわゆる暗黒時代を経て古代ギリシャ・ローマ美術が注目され始めた頃のこと。
古代文化に魅力を感じたメディチ家はその財力と影響力を使い、それまでタブーとされていた異教の神や女性の裸体を美術として発展させていきました。
このヴィーナスの誕生を描いたサンドロ・ボッティチェリは、メディチ家の支援を受けた画家の一人です。
絵の中で抱き合いながら強い息を吹きかけているのが西風の神ゼフュロスで、息を吐いて身体を温めているのが花の神フローラです。
岸辺でヴィーナスを迎えているのは季節の神ホーラーです。
ホーラーの服の模様は、これから訪れる春を連想させるものになっています。
(絵の内容については以下の過去記事から抜粋。)
ドミニク・アングル
ドミニク・アングルは海水で重くなった髪の毛を絞る姿を描いています。
象徴である貝殻は描かれておらず、その代わりにクピド(キューピット)と誕生の際に生じた泡を描くことで、ヴィーナスであることを表しています。
1808年から制作を開始し、40年の歳月をかけて完成されたこの作品。
表情やクピドの表現はラファエロ・サンティのフレスコ画に影響を受けたものとされています。
アレクサンドル・カバネル
アレクサンドル・カバネルは波の上に横たわるヴィーナスを描きました。
腕の間から覗く視線は、何かを訴えかけているように感じます。
白濁とした波の泡と共に描かれるクピド(この場合天使ともとれる)は、ドミニクの絵同様にこの絵の神がヴィーナスであることを象徴しています。
遥か遠くにはヴィーナスが生まれたとされるキプロス島のシルエットが描かれています。
ウィリアム・アドルフ・ブグロー
ウィリアム・アドルフ・ブグローはボッティチェリ同様、貝殻に乗るヴィーナスを描きました。
貝殻を引っ張るのはヴィーナスの象徴の一つであるイルカ。
それを愛でるクピドと、女神の誕生を祝福するその他の神々たち。
女性的な美を追求した作品でもあり、S字に曲がる身体や眠りから覚めたような仕草や表情が魅力でもあります。
「プシュケーの誘拐」に並ぶブグローの有名な作品でもあります。
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