科学

過去最大規模の研究が示す、大麻と脳の機能低下の関連性

科学

医療用および娯楽用の大麻は、世界各国で合法化が進んでいます。

 

しかし、大麻が身体的および精神的健康にどのような影響を及ぼすのかについては、依然として不明な点が多く、議論が続いていることも事実です。

 

今回、コロラド大学から新たに発表された研究では、大麻の頻繁な使用が作業記憶(ワーキングメモリ)に悪影響を及ぼす可能性が示されました。

 

この研究は、過去に行われた同様の研究の中で最大規模であり、大麻の使用と脳機能の関係についてより詳細なデータをが分析されました。

 

今回のテーマとしてまとめます。

 

参考研究)

Brain Function Outcomes of Recent and Lifetime Cannabis Use(2025/01/28)

 

 

ワーキングメモリとは?

  

ワーキングメモリとは、人が情報を一時的に保持しながら処理する能力のことを指します

 

これは日常生活において不可欠な認知機能であり、意思決定や問題解決、集中力、計画の遂行などに重要な役割を果たします。

 

例えば、電話番号を一時的に記憶しながらダイヤルする、会話中に相手の話を理解しながら自分の意見を考える、料理のレシピを見ながら調理するといった場面で、ワーキングメモリが働いています。

  

この機能が低下すると、学習能力や仕事の効率が低下し、日常生活にも支障をきたす可能性があります。

 

  

研究の概要

この研究は、アメリカとカナダの複数の研究機関に所属する神経科学者らの協力を得て実施されました。

 

研究では、1,003人の若年成人を対象に、自ら申告した大麻の使用習慣と脳の活動パターンを比較されました。

 

大麻の使用歴と脳の機能的変化を関連付けるため、認知機能に関する7つの課題を実施し、fMRI(機能的磁気共鳴画像法)を用いて脳の活動を測定しました。

 

このような大規模な脳画像研究はこれまでに例がなく、大麻が脳にどのような影響を与えるのかを深く理解するための貴重なデータとなりました。

 

その結果、常習的な大麻使用者や最近大麻を使用した人は、ワーキングメモリ課題を実施する際に、脳の活動が低下していることが確認されました。

 

一方で、報酬メカニズム、感情処理、言語能力、運動能力に関するテストでは、大麻使用者と非使用者の間に大きな違いは見られませんでした

 

コロラド大学アンシュッツ・メディカルキャンパスのJoshua Gowin博士は、この研究について次のように述べています。

 

本研究では、統計的有意性の厳格な基準を設定し、7つの認知機能テストすべてにおいて厳密な分析を行った。その結果、いくつかの課題では認知機能の低下が示唆されたが、特にワーキングメモリ課題において統計的に有意な影響が確認された。

 

 

大麻が影響を与える脳領域

研究では、ワーキングメモリに関与する特定の脳領域に着目し、大麻使用者の脳活動が非使用者に比べて低下していることを確認しました。

 

その影響を受けていた主な領域は以下の通りです。

• 背外側前頭前野(Dorsolateral Prefrontal Cortex):意思決定や計画の立案、注意力の制御に関与

• 背内側前頭前野(Dorsomedial Prefrontal Cortex):認知制御や自己意識に関与

• 前部島(Anterior Insula):感情処理や自己認識に関与

Brain Function Outcomes of Recent and Lifetime Cannabis Useより

  

これらの領域には、大麻の主要成分であるTHC(テトラヒドロカンナビノール)の標的となるCB1受容体が高密度に存在しています。

 

大麻を頻繁に使用すると、これらの受容体の感受性が低下し、脳の働きが変化する可能性があると考えられています。

 

 

過去の研究との比較

過去の研究でも、最近大麻を使用した人のワーキングメモリ課題中の脳活動が低下していることが示唆されていました。(Urinary tetrahydrocannabinol is associated with poorer working memory performance and alterations in associated brain activityより

 

しかし、今回の研究では、さらに厳密な条件で分析を行い、大麻の成分が体内に残っていない人でも影響があることを確認しました。

 

また、大麻使用の影響が一時的なものなのか、それとも長期的な変化を引き起こすのかについてはまだ結論が出ていませんが、本研究は長期的な影響の証拠を支えるものといえます。

 

 

大麻の使用と認知機能のリスク

また、研究結果から、精神的に負荷のかかる状況の前に大麻の使用を控えることで、記憶力が向上する可能性が示唆されました。

 

しかし、常習者が急に大麻を断つと、禁断症状により認知機能が低下するリスクもあるため、単純に「使用を控えれば良い」とは言えません。

 

Gowin博士は、大麻の使用とその影響を正しく理解することが重要であると述べており、「大麻との関係性を正しく理解することが重要。急に使用をやめると、かえって認知機能に悪影響を及ぼす可能性があるため、常習者は慎重になるべきだ。」と使用と中しにおける注意を促しています。

 

 

今後の課題と研究の意義

今回の研究では、大麻とワーキングメモリの関係が示されましたが、そのメカニズムの詳細や影響の持続期間はまだ明らかになっていません

 

また、年齢や健康状態などの要因も関係している可能性があります。

 

それでも、本研究は大麻の長期的かつ定期的な使用が脳の重要な機能に影響を及ぼす可能性を示した点で大きな前進といえます。

 

Gowin博士は、大麻の使用が増加する現状を踏まえ、こう述べています。

 

大麻の使用が世界的に増加している今、その健康への影響を研究することはますます重要になっている。本研究を通じて大麻の利点とリスクの両方を正しく理解し、人々が情報に基づいた決断を下せるよう支援したい。

 

 

まとめ

・大麻の常習的な使用は、ワーキングメモリに関連する脳の活動を低下させる可能性がある

・影響を受ける脳領域は、意思決定や注意、感情処理に関与する部位と一致する

・大麻の影響メカニズムや長期的な影響については、さらなる研究が必要

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