科学

なぜFDA(米食品医薬品局)が赤色3号を禁止したか

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赤色3号(別名:FD&C Red No. 3、エリスロシン、E127)は、1969年にFDA(米食品医薬品局)から承認されて以来、食品、化粧品、医薬品に広く使用されてきました。

 

この合成着色料は、多くのキャンディー、飲料、焼き菓子、シリアル、マラスキーノチェリー、ゼリー状のデザート、さらには一部の薬品や化粧品に至るまで、日常的に消費される製品に含まれています。

 

しかし近年、赤色3号の摂取が健康に重大なリスクをもたらす可能性があるとの科学的証拠が増えています。

 

このリスクを背景に、2023年にカリフォルニア州が食品での使用を禁止し、2025年1月15日、FDAは食品および医薬品での使用を全米で禁止しました。

 

(詳しくは以下の記事でも説明↓)

 

炎症やがんを専門に研究するLorne J. Hofseth教授(サウスカロライナ大学)は、赤色3号やその他の合成染料が人体に及ぼす悪影響について指摘しています。

 

彼によれば、規制の強化は、赤色3号を含む合成染料が人体に与える負の影響への懸念が高まっていることを反映しているといいます。

 

今回はそんな赤色3号をテーマに、FDAがこの物質を禁止した理由についてまとめていきます。

 

参考記事)

FDA bans Red 3 dye from food and drugs – a scientist explains the artificial color’s health risks and long history(2025/01/23)

 

 

赤色3号の使用とその歴史

赤色3号は、その鮮やかな赤い色と安価な製造コストから、多くの食品や製品に利用されてきました。

 

例)

• 食品:キャンディー、ゼラチンデザート、マラスキーノチェリー、焼き菓子、シリアル

• 飲料:人工的に着色されたソーダ類

• 医薬品:特定の薬品やシロップ

• 化粧品:リップスティックやアイシャドウ

  

赤色3号は、見た目の魅力を高めるために欠かせない成分とされてきました。

 

一方、1960年代の承認当初から健康リスクについての懸念が徐々に表面化してきました。

1980年代にはすでに、赤色3号が甲状腺腫瘍を引き起こす可能性があるという動物実験結果が報告されていましたが、食品業界の反発により規制は先送りされていました。

 

しかし、FDAは、科学的な根拠の積み重ねと同時に、合成着色料に対する懸念が社会的に高まっている背景から赤色3号の禁止に踏み切ったとしています。

 

 

赤色3号の健康リスク:科学的根拠 

  

過去35年間にわたる研究により、赤色3号が人体に与える悪影響についての証拠が明らかになっています

 

以下は、レビューから示された主なリスクの詳細です。

 

1. 甲状腺ホルモン機能への影響

赤色3号は甲状腺ホルモンの正常な機能を阻害することが示されています。(Effects of oral erythrosine (2′,4′,5′,7′-tetraiodofluorescein) on thyroid function in normal menより

• ヨウ素の吸収を阻害:甲状腺ホルモンの合成に必要なヨウ素の吸収を妨げる作用がある

• ホルモン変換の阻害:特定の酵素の働きを抑えることで、甲状腺ホルモンの変換が正常に行われなくなる

• 甲状腺障害のリスク:これらの影響が積み重なり、甲状腺機能低下症やその他の甲状腺疾患のリスクが高まる

 

2. 発がん性の可能性

動物実験では、赤色3号甲状腺腫瘍の発生率を増加させることが示されています。(The Promoting Effects of Food Dyes, Erythrosine (Red 3) and Rose Bengal B (Red 105), on Thyroid Tumors in Partially Thyroidectomized N-Bis(2-hydroxypropyl)- nitrosamine-treated Ratsより

• ラットやブタを対象にした研究では、赤色3号に曝露された個体の甲状腺が肥大し、腫瘍が形成されることが確認されている

• 人間における発がんリスクの直接的な証拠はないものの、動物実験の結果は十分に警戒すべきものとされている

 

3. 神経毒性と脳への影響

赤色3号は、神経細胞を保護する抗酸化作用を低下させ、酸化ストレスを増加させることが示唆されています。(Erythrosine-Induced Neurotoxicity: Evaluating Enzymatic Dysfunction, Oxidative Damage, DNA Damage, and Histopathological Alterations in Wistar Ratsより

• 酸化ストレスの増加により、脳の組織や神経伝達に影響を及ぼす

• 神経炎症の誘発:動物実験では、赤色3号が神経炎症を引き起こし、神経細胞の損傷や機能不全を引き起こすことが明らかになっている

• アルツハイマー病との関係赤色3号は、アルツハイマー病に関連するアミロイドベータペプチドに影響を与え、症状を悪化させる可能性がある

 

 

規制強化の背景 

 

FDAは、人間に対する直接的な発がん性の証拠はないものの、動物実験の結果を規制の根拠として認めました。

 

この判断は1958年の「デラニー条項」に基づいており、がんを引き起こす添加物を禁止する規定に準じています。

 

しかし、動物実験で甲状腺腫瘍との関連が初めて報告されてから、全米で禁止されるまでには35年以上の時間を要しました。

 

今後、FDAの規制により、2027年までに食品、2028年までに医薬品から赤色3号を除去することが義務付けられます。

 

他国では依然として赤色3号が使用されている場合もありますが、米国への輸入品は国内の安全基準を満たす必要があります。

 

また、世界的な規制基準の調和が消費者の健康を守る上で重要な課題となっており、一部の企業では、すでに合成染料の使用削減に向けた取り組みが進められています。

 

今回の例は、単に人体に害のある物質が規制されたということにとどまらず、消費者の健康意識に対する懸念が社会に広まっていることを表すものとも言えます。

 

 

日本の消費者庁の見解

消費者庁の見解として、現時点では安全上の問題はないとしているものの、「米国における決定の内容を精査し、米国以外の諸外国における動向なども踏まえ、科学的な見地から食用赤色3号の食品添加物としての使用について検討していく予定です。」との回答しています。(2025年1月17日 時点)

 

日本におけるこの添加物の議論はまだ先になりそうですね。

 

現時点では「疑わしきは罰せず」なのか「疑わしきを罰す」なのかは消費者次第ということとなりますが、個人的には「必要が無いなら避けたい」と考えています。

 

 

まとめ

・赤色3号は1969年にFDAによって承認された添加物

・食品や化粧品に広く使用されてきたが、健康リスクが指摘されたことで、2025年1月に米国での禁止が発表された

・甲状腺機能への影響、発がん性の可能性、神経毒性が動物実験で確認され、人間への影響も懸念されている

・FDAの規制により、2027年までに食品、2028年までに医薬品から除去予定

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