哲学

【韓非子㉝】災いの元となる口を塞ぐ

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【前回記事】

 

この記事では、中華戦国時代末期(紀元前403~紀元前222年頃)の法家である“韓非”の著書韓非子についてまとめていきます。

      

韓非自身も彼の書も、法家思想を大成させたとして評価され、現代においても上に立つ者の教訓として学ぶことが多くあります。

        

そんな韓非子から本文を抜粋し、ためになるであろう考え方を解釈とともに記していきます。

      

【本文】と【解釈】に分けていますが、基本的に解釈を読めば内容を把握できるようにしています。

       

今回のテーマは“漏(も)れずば以(もっ)て酒を盛る可(べ)し”です。

      

                         

                 

漏れずば以て酒を盛る可し

【本文】

堂谿公(どうけいこう)、昭候(しょうこう)に謂(い)わく、今千金の玉巵(ぎょくし)有り、通じて当無(そこな)し、以(も)て水を盛る可(べ)きか、と。

 

昭候曰(い)わく、不可なり、と。

 

瓦器有りて漏れず、以て酒を盛る可きか、と。

 

昭候曰わく、可なり、と。

 

対(こた)えて曰わく、夫(そ)れ瓦器は至賤(しせん)なれど、漏れずば以て酒を盛る可し、千金の玉巵の至貴なる有りと雖(いえど)も、当(そこ)無くして漏り、水を乗(も)る可(べ)からずば、則(すなわ)ち人孰(ひとたれ)か漿(しょう)を注がんや、今、人の主と為りて、其の群臣の語を漏らすは、是(こ)れ猶(な)お当無き玉巵のごとし、聖智有りと雖も、其の術を尽くすもの莫(な)けん、その漏らすが為なり、と。

 

昭侯曰わく、然り、と。

 

昭侯、堂谿公の言を聞き、此(これ)より後、天下の大事を発せと欲するときは、未だ嘗(かつ)て独り寝(い)ねずんば、あらず。

 

夢言(むげん)して人をして其の謀(はかりごと)を知らしめんことを恐るればなり。

 

一に曰わく。

 

堂谿公、昭侯に見(まみ)えて曰わく、今、白玉の巵(し)有りて当(そこ)有らば、君渇するとき、将に何(いず)れを以て飲まんとする、と。

 

君曰わく、瓦巵以てせん、と。

 

堂谿公曰わく、白玉の巵は美なるに、而(しか)も君以て飲まざる者は、其の当(そこ)無きを以てか、と。

 

君曰わく、然り、と。

 

堂谿公曰わく、人主と為りて、其の群臣の語を漏泄(ろうせつ)するは、譬(たと)えば猶お玉巵の当(そこ)無きがごとし、と。

 

堂谿公、見えて出(い)ずる毎に、昭侯必ず独り臥(ふ)す。

 

惟(た)だ、夢言にして妻妾(さいしょう)に泄るるを恐るればなり。

  

【解釈】

堂谿公が韓の君主である昭侯に相見えこう聞いた。

 

「ここに千金に値する玉杯があるとします。

 

それが筒抜けで底が抜けているとしたら、それで水を盛ることはできましょうか」

 

その問いに昭侯は、「できない」と答えた。

 

続けて堂谿公はこう聞いた。

 

「では土器がありまして、水が漏れないとしたら、それで酒は盛れますでしょうか」

 

昭侯は、「それなら盛れるだろう」と答えた。

 

そこで堂谿公は言った。

 

「土器は賤しい物ですが、漏らねば酒を盛ることもできます。

 

千金の玉杯は極めて高価でも、底がなくて漏り水を入れることができないならば、誰が飲み物を注ぎ入れましょう。

 

今、人々の君主たる者が臣下から聞いたことをすぐに漏らすならば、それは底のない玉杯と同じです。

 

いかに賢明な士でも、其のような君主の下では、その才能を活かすことはできないでしょう」

 

昭侯はこの話を聴いてから、自分が重大な決断をすると決めた時、必ず独りで寝ることにした。

 

もしうっかり寝言でも言って、計画を知られることを恐れたからだ。

 

また、この一連の話はこうも伝わっている。

 

堂谿公が韓の昭侯に謁見し、こう言った。

 

「今ここに底が無い白玉の杯があるとして、また、底がある素焼きの土器もあるとする。 

 

としましたら、人が喉を潤すとき、どちらの杯を選ぶでしょうか。」

 

昭侯は答えた。

 

「それは土器だろう」

 

続けて堂谿公は言った。

 

「白の玉杯は美しいのに、それでは飲まぬというのは、白玉の杯に底が無いからでしょうか」

 

昭侯は、その通りだと答えた。

 

堂谿公は言った。

 

「君主たる者が臣下の言葉をすぐ他人に漏らすのは、この底のない玉杯のようなものです」

 

この後昭侯は、いつも独りで寝るようになった。

 

理由は他でもない。

 

寝言によって女たちに君主としての秘密が盛れることを恐れたからである。

 

 

災いの元となる口を塞ぐ

他人から得た情報を軽々しく口にしてはならないという教訓ですね。

 

それを心得ていない君主の下では、いくら優秀な参謀だとしても、大声で自分の作戦をバラしてしまうあほうと同じことです。

 

作戦は、誰かに知られた時点で価値を失うと考えるべきものであるため、どれだけ情報が大切であるかを伝える節でもあります。

 

口は災いの元とは良く言ったものです。

 

自分が君主でなく一個人だとしても、他人から得た秘密をやたらに話して良いことはありません。

 

一時の優越感の代償に大きな信頼を失うものでもあります。

 

人間関係や組織運営においても、情報はデリケートなものとして考え、取り扱いには十分注意が必要ですね。

 

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