自分の失敗やめんどくさい仕事など、嫌な情報はなるべく耳に入れたくないですよね。
逆に、自分を明るくしてくれる言葉や、自分の話で相手が笑ってくれる場合など、自分を心地よくしてくれる良い情報に触れていたいというのが人間です。
では、自分が相手にポジティブな印象を与えようと考えたとき、右耳と左耳どちらに語りかけた方がより効果なのでしょうか?
今回はそんなポジティブな情報の話し先についての面白い研究についてです。
参考記事)
・The Human Brain Shows a Weird Preference For Sounds From The Left(2023/05/24)
・Our brain prefers positive vocal sounds that come from our left(2023/05/19)
・Focused and Nonfocused Attention in Verbal and Emotional Dichotic Listening: An FMRI Study(2001/09/03)
好意的な情報は左耳に話すと良いかもしれない
スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)、ローザンヌ大学病院、ローザンヌ大学の神経科学者たちは、声の知覚に奇妙な偏りがあることを発見しました。
研究では13人の成人を対象に、声を聞いた際の脳をスキャンし、その反応を調べました。
すると、笑い声のようなポジティブな人間の声は、左耳から聞こえた場合に脳の聴覚野でより強い神経活動を引き起こすことが分かりました。
この実験では、聴覚野の活動の変化にのみ着目しているため、なぜそのような傾向があるのかは明らかになっていません。
このような変化が、音に対する知覚にどのように反映されるかは不明であり、今後の研究で検証する必要があります。
しかし、これまでの研究でによって、左耳は人の声の感情的なトーンをより簡単に識別できることが示されており、何らかの特殊性があることが分かっています。
左には最初に聴覚野の右半球に情報を送るため、右側の脳は左側よりも感情的な処理に優れているはずだと考えられていました。
しかし、今回の結果はそれが正しい答えではないことが示唆されています。
研究の参加者は、左側の他に中央と右側からも人間のポジティブな発声を聴いた際、いずれも聴覚皮質の両側が活性化しました。
しかし、左側で聞いた場合はより強い神経化学反応を引き起こしていました。
EPFLの神経科学者サンドラ・ダ・コスタ氏は、「この現象はポジティブな発声が正面や右から聞こえてきた時には起こっていません」と述べています。
また、無意味な母音や人間の発生以外の音、怯えた叫び声など中立または負の感情をもつ音は、左側で聞くことの関連性を持たないことが示されました。
これまでの研究で、救急車のサイレンがこちらち向かって来る時など、迫り来る音は後退する音よりも不潔で刺激的な音として認識されることが多いことが分かっています。
また音が後ろから聞こえてくると、人はより興奮しやすいという研究結果もあります。
特定の方向から聞こえてくる音に敏感になる事は、進化論的に理にかなっています。
数千年前の人類が生き残るためには、後ろから忍び寄ってくる音には特別な疑いを持つことが必要だったことでしょう。
しかし、それだけでは人間のポジティブな感情を含んだ声と左側の耳で聞くことによる脳の活性化の説明はできません。
脳の機能には右脳よりも左脳に多く存在するものや、その逆のものがあることが知られていますが、今回のケースではそれがこの結果を説明することにはならないようです。
神経科学者のステファニー・クラーク氏は、「一次聴覚野が左側のポジティブな人間の発生を好むのは、人間の発達過程でいつ現れるのか、また、これが人間特有の特性なのかどうかは、今のところ不明です」と述べています。
今後の研究によって、この仕組みが明らかになることで、精神的に人を落ち着かせる際の仕組みや、精神が不安定な人への話し方について新たな発見が見つかる可能性が期待されます。
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