科学

「グルテンが体に悪い!」というノセボ効果で過敏性腸症候群(IBS)の症状が悪化

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過敏性腸症候群(IBS)は、腹痛と便秘または下痢を繰り返し引き起こす消化管の病気です。

 

消化器系の疾患がない場合にも起こることがあり、ストレスや腸内細菌の状態など様々な要因が複雑に絡んでいるとされていますが、その確たる原因は明らかになっていません。

 

今回のテーマはそんな過敏性腸症候群と症状について研究についてです。

 

実は「思い込み」によって引き起こされている可能性もあるという研究であり、その思考によってさらに悪い結果が引き起こされる可能性に言及されています。

 

以下にまとめていきます。

 

 

参考記事)

Surprising ‘Nocebo Effect’ Shows Gluten May Not Be The Problem in IBS(2024/10/31)

 

参考研究)

The effect of expectancy versus actual gluten intake on gastrointestinal and extra-intestinal symptoms in non-coeliac gluten sensitivity: a randomised, double-blind, placebo-controlled, international, multicentre study(2024/02)

Nurse practitioner-delivered cognitive–behavioral treatment as a novel implementation route for irritable bowel syndrome: A proof of concept(2023/01/20)

Effect of Three Diets (Low-FODMAP, Gluten-free and Balanced) on Irritable Bowel Syndrome Symptoms and Health-Related Quality of Life(2019/07/11)

 

 

「ノセボ効果」による害

 

過敏性腸症候群(以下IBS)の患者の中には、特定の食品、特に「小麦」や「グルテン」に対して敏感に反応するが多くいます。

 

小麦アレルギーや自己免疫疾患のセリアック病の方もいますが、小麦やグルテンに対して不耐性や過敏性があると感じている人も多いです。

 

中には、グルテンや小麦など特定の食品が症状を引き起こすと考えており、栄養士や医師に相談する前に、これらの食品を避けることで症状を回避しようとすることがあります。

 

その結果、約3分の1のIBS患者が“オルトレキシア(健康的だと信じられている食べ物を食べることに囚われてしまう思考や行動)”に陥り、極端な信念や期待から「ノセボ効果」を生む可能性があります。

 

【ノセボ効果】

ノセボ効果は、ある薬について副作用や害を認識すると、偽薬にも関わらず体に悪影響が現れる現象です。

その反対として、薬の効果を認識することで、偽薬だとしても症状の改善などが現れるプラセボ(プラシーボ)効果があります。

   

マクマスター大学の研究チームが実施した臨床試験では、小麦、グルテン、またはノセボによってIBS患者の症状が悪化するかを調査しました。

 

その結果、グルテンや小麦で症状が悪化した患者もいましたが、ノセボを摂取した場合と同様の割合で反応が見られました。

 

つまり、グルテンや小麦が症状を引き起こしているかのように思われましたが、実際にはノセボ効果が大きく影響を与えている可能性が示唆されました。

 

イギリスとオランダの研究者によって実施された別の実験では、グルテン過敏症を報告する患者を4つのグループに分け、異なる情報とともにパンを与え、その後の反応を記録しました。

 

①グループ

・グルテンフリーのパンを与える

・患者はグルテンを含まないと認識

 

②グループ

・グルテンフリーのパン(本当はグルテンが含まれているパン)を与える

・患者はグルテンを含まないと認識

 

③グループ

・グルテンを含むパンを与える

・患者はグルテンを含むと認識

 

④グループ

・グルテンを含むパン(本当はグルテンフリーのパン)を与える

・患者はグルテンを含むと認識

 

この結果、グループ②の「グルテンフリーにも関わらず、グルテンを含むと信じていた」患者は他のグルテン含有のパンのグループ同様に症状が悪化したことが分かりました。

 

また、グループ③の「グルテンを摂取し、それがグルテンであると告げられた患者」は、他の3つのグループよりも症状が悪化しました。

 

これにより、患者の思い込みが症状に大きな影響を与える可能性が示されました。

 

 
 

グルテンに対する関心の高まりとその背景

 

IBS患者はしばしば、パンやパスタなど特定の食品が症状を引き起こすと信じて食事制限を行いますが、その背景には心理的な要因も存在します。

 

これは、IBSの診断が通常他の病気の除外によって行われることや、科学的意見の分裂、医療者が患者の経験を軽視する傾向など、多くの要因が絡んでいるためです。

 

このため、患者は医師による指導に頼るのではなく、自分で情報を見つけたり新しい食事法に頼りがちで、症状に適した治療法を模索する必要があります。

 

みなさんの中には、大切な発表や試合の直前にお腹の調子が悪くなったりすることを経験したことがある方がいると思います。

 

この症状には心理的な要因も大きく関わっていることは古くから知られているのです。

 

IBSは長らく腸と脳の相互作用による障害と考えられており、心理療法は食事への恐怖心やノセボ効果を最小限に抑え、症状の改善に役立つ可能性があります。

 

ハーバード大学の研究によると、特定の看護師による認知行動療法(CBT)がIBSの症状を改善することがわかりました。

 

カルガリー大学の研究でも、オンラインで提供されるヨガがIBS患者の症状改善に役立つとされています。

 

しかし、IBSの症状は多様な要因によって悪化するため、心理療法だけではなく、総合的な治療が求められるため、今後の研究によって原因解明が期待されています。

 

  

まとめ 

・グルテンや小麦がIBSの症状に影響を与えると信じる患者が多いが、ノセボ効果が大きく関与している可能性がある

・研究によると、患者の期待や信念が症状を引き起こす場合があり、心理療法が有効である可能性がある

・健康に配慮したバランスの良い食事を摂ることが重要で、専門家と相談しながら症状改善を目指すことが推奨される

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