L-グルタミン(またはグルタミン)は、アミノ酸の一種であり、私たちの健康において極めて重要な役割を果たします。
アミノ酸は、タンパク質を構成する有機化合物で、体内の多くのプロセスに関与しています。
これには、タンパク質の生成だけでなく、ホルモンや神経伝達物質(神経細胞間の情報を伝える化学物質)の合成も含まれます。
アミノ酸には「必須」と「非必須」の2種類があります。
非必須アミノ酸は体内で自然に生成されますが、必須アミノ酸は体内で生成されないため、食事から摂取する必要があります。
L-グルタミンはこれらのどちらにも該当せず、「条件付き必須アミノ酸」に分類されます。
これは、通常の状況では体内で十分に生成されるものの、特定の状況下(火傷、長時間の運動、妊娠、外傷、病気など)では外部から補給が必要になるという特殊な性質を持つためです。
L-グルタミンは体内で最も豊富に存在するアミノ酸であり、免疫細胞の重要な燃料源として、また炎症を抑える役割や細胞の保護など、多岐にわたる健康効果があります。
以下では、L-グルタミンが私たちの体にどのように役立つかを詳しく説明します。
参考記事)
・Everything You Need To Know About L-Glutamine(2024/12/25)
L-グルタミンの健康効果
L-グルタミンの効果は幅広く、単にタンパク質を構築するだけではありません。
以下に、その代表的な役割を挙げます。
1. 酸塩基平衡の調整:体内のpHレベルを正常に保つ
2. 筋肉の成長と修復:トレーニング後の回復をサポートする
3. タンパク質代謝の調整:タンパク質の生成と利用を促進する
4. 抗酸化物質の生成:体内のフリーラジカルを除去する抗酸化物質を生成する
5. 老廃物の排出:アンモニアなどの有害物質を体外に排出する
では次に、L-グルタミンにはどのような健康効果があるのか、特に注目される作用について詳しく見ていきます。
1. 腸の健康をサポートする
L-グルタミンは腸内細胞にとって主要なエネルギー源であり、その成長や機能を強化します。(The Roles of Glutamine in the Intestine and Its Implication in Intestinal Diseasesより)
腸内環境(マイクロバイオーム)の多様性を維持し、腸内の炎症を軽減し、腸壁を保護する働きがあります。
特に「タイトジャンクション」というタンパク質の機能を調整することで、有害物質(細菌や毒素)が腸内に侵入するのを防ぎます。
この効果により、L-グルタミンは腸の疾患リスク(大腸がん、潰瘍性大腸炎、クローン病など)を低減する可能性があるとされています。
ただし、他の研究では、クローン病の症状改善には効果が見られないことも報告されているため、今後の研究によるメカニズムの解明が期待されます。
2. 免疫機能を向上させる
L-グルタミンは、リンパ球や好中球といった免疫細胞の増殖に必要不可欠な栄養素です。(Glutamine: Metabolism and Immune Function, Supplementation and Clinical Translationより)
リンパ球は抗体を生成して病気や感染から体を守り、好中球は細菌や真菌を殺す役割を果たします。
また、炎症を調整するサイトカイン(小さなタンパク質)のバランスを保ち、過剰な炎症を抑制します。
重傷や病気などでL-グルタミンが大幅に減少すると、免疫機能が低下し、感染や臓器損傷のリスクが高まります。
このような場合には、L-グルタミンを補充することで免疫系を強化し、回復を促進することができます。
こういった免疫機能の向上や内臓の損傷リスク軽減の関係から、入院期間を短縮や感染リスクを低減する効果も確認されています。
3. 心臓の健康を保つ
L-グルタミンは心血管系においても重要な役割を果たします。(The Emerging Role of l-Glutamine in Cardiovascular Health and Diseaseより)
特に、血管内皮細胞(血管を構成する細胞)の機能を向上させ、酸化ストレスからこれらの細胞を保護します。
さらに、L-グルタミンは強力な抗酸化物質である「グルタチオン」の生成を助けます。
グルタチオンの低下は心疾患など多くの慢性疾患と関連しているため、L-グルタミンを適切に摂取することが心疾患予防に役立つ可能性があります。
また、高脂血症、インスリン抵抗性、高血圧、高血糖といった心疾患のリスク要因を軽減する効果もあります。(Dietary Glutamine and Glutamate in Relation to Cardiovascular Disease Incidence and Mortality in the United States Men and Women with Diabetes Mellitusより)
例として、糖尿病患者を対象にした大規模な研究では、L-グルタミンの摂取量が多い人は心疾患や全死因死亡率が低いことが示されています。
L-グルタミンが必要になる状況
通常、体は1日に40~80グラムのL-グルタミンを生成します。
しかし、特定の状況では体内での生成量が不足し、補充が必要になる場合があります。
• 火傷や外傷:火傷患者は多くのアミノ酸を失うため、L-グルタミン補充が免疫機能の向上や傷の治癒に役立つ
• 激しい運動:マラソンなどの高強度の運動後、L-グルタミンの血中濃度が約20%低下することがあり、免疫抑制や感染リスクを高める
• 妊娠:胎児と母体の両方の需要を満たすため、L-グルタミン補充が必要になる場合がある
L-グルタミンの推奨摂取量
L-グルタミンの推奨摂取量については厚労省の見解として名言しているものはありませんが、多くの場合、体重1kgあたり0.5g程度が目安とされています。(エマウス・メディカル・ジャパンより)
体重が40kgの場合は20g、60kgの場合は30gということですね。
ちなみにヒトに対して1週間間欠投与(27 mg/kg 体重)した試験において、多幸症が認められたことが報告されています。(対象外物質評価書 グルタミン より)
L-グルタミンは、動物性食品と植物性食品の両方に含まれており、代表的なものには以下のような食材が挙げられます。
牛肉: 約1.2グラム/100グラム(牛ひれ: 約0.3グラム/100グラム)
鶏肉: 約1.0グラム/100グラム
鮭: 約1.1グラム/100グラム
豆腐: 約0.6グラム/100グラム
ヨーグルト: 約0.3グラム/100グラム
卵: 約0.6グラム/100グラム
しかし、熱や酸などに弱いという特性があるため、なるべく高温での調理は避けた方が良いとされています。
また、グルタミン酸とグルタミン(L-グルタミン)を混同して説明しているサイトがありますが、実際はそれぞれ別の物質です。
【グルタミン酸】
構造: α-ケトグルタル酸とアンモニアから生合成される
役割: 主に脳や神経系で神経伝達物質として働き、学習能力や記憶力の向上に関与する。また、うまみ成分として食品にも多く含まれる
利用: 調味料としても広く使用され、エネルギー供給にも関与する
【グルタミン(L-グルタミン)】
構造: グルタミン酸にアンモニアが結合した形で存在する
役割: 筋肉の修復や成長、免疫機能のサポート、腸内環境の改善に重要。特に、筋肉中に多く存在し、エネルギー源としても利用される
利用: ストレス時や運動後の回復に役立つ
まとめ
・L-グルタミンは、免疫強化、腸内環境の改善、筋肉の成長・修復、抗酸化物質の生成など、多岐にわたり健康に重要な役割を果たす
・火傷、外傷、激しい運動、妊娠など、体内生成が不足する特定の状況では外部からの補充が推奨される
・動物性・植物性食品に含まれるが、熱に弱いため調理法に配慮が必要
・L-グルタミンとグルタミン酸は異なる物質
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