赤身肉は古代から人類の食生活に取り入れられ、タンパク質やビタミンB群、鉄や亜鉛といったミネラルの優れた供給源とされています。
トレーニング後の栄養補給やスタミナをつけたい際の滋養強壮などにも人気がある食材でもあります。
しかし、心臓病やがん、早死のリスクとの関連性が指摘されてきていることも長らく研究の対象となっています。
さらに、赤身肉の消費が二型糖尿病の発症リスクを高めるという新たな研究結果が注目を集めています。
今回のテーマとしてまとめていきます。
参考記事)
・Eating red meat may increase your risk of type 2 diabetes – not a lot of people know that(2024/12/23)
参考研究)
・Meat consumption and incident type 2 diabetes: an individual-participant federated meta-analysis of 1·97 million adults with 100 000 incident cases from 31 cohorts in 20 countries(2024/11/Volume 12, Issue 9)
赤身肉・加工肉・鶏肉の消費量と二型糖尿病リスク
前提として、赤身肉と二型糖尿病の関係を説明する明確なメカニズムは完全には解明されていませんが、いくつかの可能性が挙げられています。
2024年9月にケンブリッジ大学が公表した研究では、牛肉、羊肉、豚肉などの未加工の赤身肉や、ベーコン、サラミ、チョリソなどの加工肉の大量消費が二型糖尿病の発生率を増加させることが示されています。
研究では、アメリカ、地中海、ヨーロッパ、東南アジア、西太平洋(20カ国を含む)のデータを使用し、各国の肉の消費量と二型糖尿病の発症リスクとの相関性が分析されました。
以下はその内容のまとめになります。
【地域ごとの肉の消費量】
• 未加工赤身肉の消費量
最低: バングラデシュ 中央値0g/日
最高: アメリカ 中央値110g/日
• 加工肉の消費量
最低: イラン、プエルトリコ 中央値0g/日
最高: ドイツ 中央値49g/日
• 鶏肉の消費量
最低: バングラデシュ、プエルトリコ 中央値0g/日
最高: ブラジル 中央値72g/日
• 地域別の傾向
ヨーロッパ地域は加工肉の消費量が多い
アメリカ地域は鶏肉の消費量が多い
【二型糖尿病の発症リスクと肉の種類との関連性】
対象者を10年(中央値)の追跡した結果、107,271件の二型糖尿病の新規症例が確認されました。
その内容を基にすると、以下の関連性が観察されています。
• 未加工赤身肉
100g/日ごとに2型糖尿病リスクが10%増加(HR 1.10; 95CI 1.06–1.15)
• 加工肉
50g/日ごとにリスクが15%増加(HR 1.15; 95CI 1.11–1.20)
• 鶏肉
100g/日ごとにリスクが8%増加(HR 1.08; 95CI 1.02–1.14)
【用語】
HR=ハザード比
ハザード比が1であれば、罹患率や効果に差がないことを意味する
ハザード比が1未満であれば、ある群において罹患率や効果が低いことを意味し、数値が小さければ小さいほど低いとされる
95CL=95%信頼区間
同じ試験を繰り返したときの結果の範囲のうち、母平均が95%の確率で推定された信用区間に含まれる値
【地域別の関連性の強さ】
以下は、未加工の赤身肉と加工肉が二型糖尿病の発症リスクとどう関係しているかをまとめたものです。
• アメリカ地域: HR 1.13(未加工赤身肉)、HR 1.17(加工肉)
• ヨーロッパ地域: HR 1.06(未加工赤身肉)、HR 1.13(加工肉)
• 西太平洋地域と東アジア: HR 1.17(未加工赤身肉)、HR 1.15(加工肉)
• 中東地域および南アジア: 有意な関連性は見られず
鶏肉と二型糖尿病のリスク
• ヨーロッパ地域: リスクが有意に増加(HR 1.10)
• 他の地域では有意な関連性は確認されず
このことから、地域によって赤身肉、加工肉、鶏肉の消費量に大きな差があることが分かります。
また、未加工赤身肉・加工肉・鶏肉の摂取は、摂取量に応じて二型糖尿病のリスク増加と関連していますが、関連性は地域ごとに異なり、ヨーロッパとアメリカ地域で特に顕著であることが明らかになりました。
赤身肉が二型糖尿病を引き起こす理由
赤身肉が二型糖尿病を引き起こす理由として、以下のことが指摘されています。
1. 飽和脂肪酸とインスリン感受性
赤身肉は飽和脂肪酸が多く、不飽和脂肪酸が少ないため、インスリン感受性を損なう可能性があります。
2. 動物性タンパク質とBCAA(分岐鎖アミノ酸)
赤身肉には、ロイシン、イソロイシン、バリンといったBCAA(分岐鎖アミノ酸)が多く含まれています。
このBCAAがインスリン抵抗性を引き起こす可能性が示されており、小規模な研究でも短期的なBCAAの投与が人間におけるインスリン抵抗性を増加させることが確認されています。
インスリン感受性の低下およびインスリン抵抗性の上昇は、二型糖尿病のリスク増加に大きく関係する要素ですが、その作用の大きさについてはさらなる研究が必要です。
3. 腸内細菌叢とトリメチルアミン
腸内細菌が、赤身肉に含まれるコリンやL-カルニチンを代謝して生成するトリメチルアミンが、二型糖尿病リスクの増加に関連している可能性があります。(Trimethylamine N-Oxide and Related Metabolites in the Serum and Risk of Type 2 Diabetes in the Chinese Population: A Case-Control Study より)
4. 調理法と有害物質
赤身肉を高温で調理(グリル、バーベキューなど)すると生成される「糖化最終生成物(AGEs)」が、細胞損傷やインスリン抵抗性を引き起こす可能性があります。
AGEは酸化ストレスや炎症を引き起こし、健康な組織に長期的な悪影響を与えることが知られています。
赤身肉消費を減らすための推奨事項
世界保健機関(WHO)は、赤身肉消費量が過去50年間で増加していると報告しています。
しかし、イギリスのような一部の先進国では、赤身肉の消費量が安定または減少傾向にあります。
摂取量のガイドライン
イギリスでは、1日の赤身肉摂取量を70g(調理後の重量)以下に抑えることが推奨されています。
また、加工肉(ベーコンやソーセージなど)を避けることも推奨され、赤身肉の消費を減らすために、次のような方法が提案されています。
・100gのステーキを70gに減らすなどサイズを調整する
・週に1日、肉を食べない日を設定
・赤身肉を鶏肉、魚、豆類、レンズ豆などで代用する
・蒸す、煮込む、茹でるなど、高温調理を避けることでAGEsの生成を抑える
以上のことから、赤身肉は、栄養価の高い食品である一方で、過剰摂取が健康リスクを伴う可能性があります。
二型糖尿病のリスクを低減するためには、摂取量や調理法に注意を払い、代替食品を積極的に取り入れることが重要です。
まとめ
・赤身肉と加工肉の高摂取は二型糖尿病リスクを増加させる可能性がある
・BCAAや腸内細菌、調理法などがリスク要因として注目されている
・摂取量を減らし、調理法を工夫することでリスクを軽減できる可能性がある
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