高血圧といえば、心筋梗塞や脳梗塞など様々な病気を発見するための指標として使われることがあります。
日本人においては、1億2000万人のうちおよそ4000万人が高血圧と言われています。
高血圧と診断されると、病院では血圧をコントロールするための生活習慣の指導や血圧を下げるための薬剤が処方されることが多いです。
そんな血圧を下げる薬の中にリルメニジンというものがあります。
主に欧米で認可されている中枢性降圧剤で、細胞内cAMP(グリコーゲン代謝系の酵素を活性化させる物質)を減少させることで、オートファジーを誘導する効果も確認されています。
オートファジーは長寿遺伝子を活性化させるということが広く知られており、主に生物が食事などからエネルギーを摂取できない状態で活性化するものだとされています。
では、リルメニジンを使用することでオートファジーが誘導されるなら、食事制限などをする必要がないのではないでしょうか。
今回は、そんな薬と長寿に関する研究についてがテーマです。
参考記事)
・Common Blood Pressure Drug Increases Lifespan And Slows Aging in Animals(2024/04/27)
参考研究)
・Rilmenidine extends lifespan and healthspan in Caenorhabditis elegans via a nischarin I1-imidazoline receptor(2023/01/20)
リルメニジンと線虫の老化
英国バーミンガム大学の研究から、高血圧治療薬のリルメニジンは、線虫の老化を遅らせることが示されたことが発表されました。
人間においてもその効果を発揮する可能性があり、老化を遅らせる研究などへの応用が期待されています。
これまでの研究では、リルメニジンを与えられた生物が細胞レベルでカロリー制限に似た状態を表わすことが示されていました。
その他動物をモデルとした研究では、体内の栄養を維持しながら利用可能なエネルギーを減らすと寿命が延びることが示されています。
これが人間の生物学に当てはまるのか、それとも健康的なリスクになるのかは、現在も議論が続けられているテーマでもあります。
この薬剤の効果が人体でも同様の効果を示すかどうかが明らかになれば、断食などの極端なカロリー制限などをせずに、同じ利益を得ることができるかもしれません。
1月に発表された研究では、通常は高血圧の治療に使用される薬剤(リルメニジン)を与えられた線虫は、カロリー制限を行った状態と同じようにさまざまな健康マーカーの測定値が高いことが示されました。
バーミンガム大学の分子生物老生物学者ジョアン・ペドロ・マガリャエス氏は、 「リルメニジンが寿命を延ばす可能性があることを動物で初めて示すことができた」と述べています。
線虫(C. elegans)は、その遺伝子の多くが私たちのゲノム内の構造と類似しているため、研究の素材としてよく利用されます。
しかし、消化に必要なプロセスや消化酵素など人の生態内における 複雑な反応には遠く及びません。
続く試験では、さらに構造が人間に近い近いとされるマウスにおいて、リルメニジンによる治療が行われました。
どの結果としてマウスの腎臓および肝臓組織で、カロリー制限に関する遺伝子活性が見られたことが報告されました。
これらの反応は、nish-1と呼ばれる生物学的シグナル伝達受容体がリルメニジンと関係していることが原因と考えられています。
研究者らは、「nish-1が体内から削除されると、リルメニジンの寿命延長効果がなくなることが分かった」と説明しており、逆に、nish-1を復活させることで、寿命が延長されたことが報告されています。
低カロリーの食事は多くの人にとって継続が難しく、めまい、骨がもろくなるなどのさまざまな副作用も伴います。
この研究はまだ初期の段階ですが、この高血圧 薬(リルメニジン)によって体に負担をかけずに、低カロリーの食事と同じ効果をもたらすことができれば、そういった食事コントロールで悩む人達への新たな解決手段になり得ると考えられます。
また、リルメニジンが抗老化薬として有望な候補である理由は、それが経口摂取可能であり、すでに広く処方されており、副作用(動悸、不眠症、眠気など)が比較的軽いことです。
リルメニジンが実際の人間の老化防止薬として機能するかどうかを解明するには、まだ長い道のりが必要ですが、これらの線虫とマウスのテストで得られた初期の結果は今後さらなる研究に繋がるとしています。
マガリャエス氏は、「世界的に高齢化が進む中、たとえわずかであっても高齢化を遅らせることのメリットは計り知れません」と述べています。
この研究は『Aging Cell』にて詳細を確認できます。
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