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【日本語の雑学⑥】外国人を困らせた「ぼく」「わたし」

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【前回記事】

 

この記事では、山口謠司氏が著した“面白くて眠れなくなる日本語学”より、個人的に興味深かった内容を紹介していきます。

    

著書内で語りきれていない点などもの補足も踏まえて説明し、より雑学チックに読めるようにまとめていく積もりです。

     

今回のテーマは“外国人を困らせた「ぼく」「わたし」”です。

 

   

   

外国人を困らせた「ぼく」「わたし」

英語圏の人々にとって習得が難しい言語のひとつとして、アラビア語や中国語と並び日本語が挙げられています。

    

言語的な考え方が近いデンマーク語やイタリア語はおよそ23〜24週(約600時間)で習得可能なカテゴリー1に分類され、日本語はおよそ88週(2200時間)で習得可能とされるカテゴリー5に分類されています。

 

漢字やカタカナそしてひらがなが同時に使い、主語を省略することが多く、イントネーションやアクセントでニュアンスが変わり、さらには時制の区別も難しいとなると、ジャパニーズネイティブのようなレベルまで至るにはかなりの時間が必要だそうです。

 

出典:Reddit より

 

イギリス出身のジャーナリスト“ジョン・レディ・ブラック(1826年~1880年)”は、1861年から1880年の間、日本の横浜に滞在し、世界に日本の歴史や芸術習慣などを発信していた人物です。

 

彼女は当時、日本語についてこのような趣旨の記事を残しています。

 

『日本語は、文章の言葉と会話の差異が大きく、特有の難しさが多くある。

紳士(当時の士族)の言葉と俗語(庶民の言葉)では、相違が著しい。

男と女は別々の言葉を使う。

だから日本語を少しでも知っている者なら誰でも、話し手が日本語を女の言葉から学んだか、紳士からか、それとも召し使いからか、あるいは大袈裟な古典学者の会話から学んだかをすぐ簡単に言い当てることができる。』

 

つまり、身分や仕事によって話し方が全く違ったということです。

 

その代表例として、人称代名詞を見ていくことにします。

 

 

様々な人称代名詞

仮名垣魯文(かながきろぶん)の「安愚楽鍋(あぐらなべ)」では、立場による人称代名詞の違いをよく見てとることができます。

 

【一人称】

・ぼく→士族、新聞好き

・わたくし→町人、外国人

・おいら→商人、怠け者の男

・おら→職人、車夫

・こちとら→職人

・わちき→落語家、娼妓、芸者、茶屋女

・わっち→芝居者、落語家

 

【二人称】

・きみ→田舎から出てきた武士、新聞好き

・あなた→西洋好き、外国人、落語家

・おめえ→商人、怠け者

・てめえ→職人

・おめえさん→芝居者

・おまえ→娼妓、芸者、茶屋女

 

現代でも言われたらなんとなく理解できる呼び方だと思います。 

 

多彩な呼び方があった日本の代名詞ですが、“身分の違いをなくす”という国の方針に則り、呼び方が決められていきます。

  

1887年の“尋常小学読本”では、

一人称→「わたくし、わたし、われ、おのれ、拙者、子、朕」

二人称→「あなた、おまえ、汝、そなた、貴殿、君」

と定められました。

 

続く1900年の“国語読本”では、

一人称→「わたくし、わたし、おれ」

二人称→「あなた、おまえ」

と定められました。

 

さらに1904年の“尋常小学読本”では、

一人称→「わたくし、わたし、おれ」

二人称→「あなた、おまえ、きみ」

と定められました。

   

このような国の方針として、外国人からすると混乱しがちな日本語が少しずつ統一されていったのです。

 

明治時代以降の国際社会を戦い抜くため、呼び方を統一し意思疎通の最適化を図ろうとしたことは必然だったのかもしれません。

 

でも「わて」や「おいどん」など方言も合わせると、個性的な一人称はもっと沢山ありそうです。

 

そういった言葉の文化も、時代を経て少しずつ失われてしまうのはなんだか寂しい気がしますね。

 

 

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