今回は聖書の一場面“キリストの洗礼”をテーマにした絵画の紹介です。
ヨルダン川で人々に善と正義の教えを説いていたヨハネ。
教えとともに洗礼を施す彼の前に、群衆に紛れてキリストも洗礼を受けにきました。
ヨハネ(または代理人)によってキリストへの洗礼が始まると、雲の間から神の声が響き渡り、聖霊が降りてきたと言われています。
初期キリスト教美術に代表される、3世紀ローマのカタコンベの壁画に描かれる頃から重要とされてきたシーンです。
レオナルド・ダ・ヴィンチ&アンドレア・デル・ヴェロッキオやヤコポ・ティントレットなども好んで絵の題材にしています。
ギリシャのクレタ島出身の画家エル・グレコは、この“キリストの洗礼”をテーマとして絵を描いた巨匠のひとりです。
それまでのキリストの洗礼は、キリストが正面を向いていたり、謙虚に跪く様子が主流でしたが、グレコはキリストに片膝をつかせて描きました。
岩に膝をつくキリストが謙虚さと荘厳さを兼ね備えた斬新な表現とされ、当時から教会からは定評がありました。
聖霊であるハトによって、人間が生きる地上界と神が存在する天上界を分けるように描かれています。
またハトの少し上を中心として渦を巻くように描かれたこの絵は、どこか神秘さを感じさせてくれます。
聖書に記されている場面だけではなく、神の慈愛による人類の救済も意味しているとされています。
絵全体として見ると人が伸びていて不自然なように見えますが、これはマニエリスムに特徴的な、引き伸ばされたように描かれる人体比率によるものです。
グレコの個性的な絵によくマッチしていて見応えある作品だと思います。
特に晩年になるほど、絵は炎が舞い上がるように伸びる表現が目立ったとされています。
そんなグレコのキリストの洗礼はスペイン・マドリードのプラド美術館の美術品のひとつとして飾られています。
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