男の首を切る女性の絵。
これらの絵を見てどのような印象を受けますか?
これは旧約聖書に登場する“ユディト”という女性を題材に描かれた絵画です。
今回はこのユディトに関する話と、時代によって変わる印象の違いに触れていきます。
【あらすじ①】ユディト
ユディトは夫を亡くした過去を持つ裕福な家庭に住むユダヤ人女性です。
ベトリアという名の町に住み、信仰深く、皆から尊敬される人間でした。
ある時アッシリアの勢力拡大において、協力的でなかった国を討伐して回っているとの噂が広がります。
彼女の住むベトリアも例外ではなく、”ホロフェルネス”という頭がよく切れ、力は獣のように強い司令官が差し向けられます。
ホロフェルネスの軍はベトリアを包囲し、降伏を促します。
水源を絶たれたベトリアは、ホロフェルネスに対して服従を決意しようとします。
失意の内にいる町の人をよそに、ユディトは一計を案じます。
ユディトが敵の陣営に忍び込み、ホロフェルネスの首を取ってこようと言うのです。
【あらすじ②】ユディトとホロフェルネス
作戦はその日の夜すぐに実行されました。
着飾ったユディトとひとりの老従者がホロフェルネスの陣営に近づくと、問答無用で拘束されてします。
普段なら尋問の末に処刑の対象でありましたが、美しい容姿に加え気品のある振る舞いからホロフェルネスのもとに連れ出されます。
ユディトは、「あなたはベトリアの誰よりも男らしい。」とホロフェルネスを称賛し、老従者は「我々はあなた様に従います。」と服従の誓いをします。
ホロフェルネスは妖艶なユディトを前に、「共に分かり合おう」と護衛や見張りを引き上げるさせ、夜を共にする準備をします。
そして、ホロフェルネスが油断した瞬間、ユディトは彼の懐から短剣を奪い、瞬く間に首を切り落としたのです。
夜の間に司令官を失ったホロフェルネス軍は、降伏寸前のユダヤ軍の一転攻勢に敗れ去るのでした。
このストーリーからユディトは、“悪徳に打ち勝つ勇気や美徳、謙譲の象徴”として見られるようになりました。
絵画の題材としても人気があり、多くの巨匠によって長い間描かれてきました。
はじめは勇気や美徳の象徴として描かれていましたが、ルネサンス期以降になると男を破滅に向かわせる女として描かれるなど、時代によって見方が変わる面白い題材でもあります。
美術としてのユディト
カラヴァッジョはホロフェルネスの寝首をかく姿を描きました。
主題であるユディトは明るく、苦悶の表情を浮かべるホロフェルネスは薄暗く描かれています。
老従者が首を包む麻袋を持っているのもまた不気味ですね。
また2014年にある家の屋根裏から一枚の絵が発見されました。
技法や塗料の使い方、専門家によるディスカッションなど厳密な調査の結果、カラヴァッジョが描いたものとされ、価値としては100~200億と推定されています。
ジョルジョーネ
ジョルジョーネが描いたとされる数少ない作品の一つがこのユディトです。
ホロフェルネスを踏みつけ蔑む様子が見て取れます。
この絵が発見された当初は不適切な修復が幾度となくされおり、現在の絵とは程遠い見え方をしていました。
光学顕微鏡や紫外線による綿密な調査によって本来の絵の書かれ方が判明し、再度修復がされた姿が現在の絵になっています。
クラナッハ
ルーカス・クラナハは、うつろな目をしたホロフェルネスと妖艶に佇むユディトを描きました。
女性の美しさにフォーカスした絵ですが、男性が身を滅ぼしてしまう恐ろしさも感じます。
彼は何枚もユディトの絵を描いたとされていますが、そのうちいくつかはルーカスの絵を参考に弟子が作り上げたものとされています。
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