英雄が犯した罪
バト・シェバとダビデは、ゴリアテを倒した英雄ダビデがイスラエルの王になったあとの物語です。
ある日ダビデが自宅の周りを散歩しているとき、身体を洗っているひとりの女性を見つけます。
ダビデはこの女性に一目惚れをし、配下の者に彼女は一体何者なのかを探らせます。
彼女は名を”バト・シェバ”といい、ウリヤという軍人を夫に持つ女性でした。
ダビデは彼女を王宮に呼び寄せこう言います。
「夫が戦場に行っている間、私に服従せよ。」
その結果二人は夜をともにしてしまいますが、しばらくするとバト・シェバが妊娠したことが判明します。
これを知ったダビデは、夫のウリヤを戦場から呼び戻し、無理やりバト・シェバを抱かせようと画策します。
妊娠をごまかそうとしたのです。
しかし、ウリヤは戦場からは戻りダビデ王と面会しますが、家に帰ろうとはしませんでした。
ウリヤはこう言います。
「仲間を戦場に置いて自分だけ家で休むことはできません。」
これを聞いたダビデはウリヤに“ある手紙”を渡し、軍の指揮官に渡すよう伝え戦場に戻します。
ウリヤの死と神の怒り
ウリヤが持ってきた手紙を見た指揮官は、ウリヤを最善線に送りつけました。
最前線に立ったウリヤは命令通り戦い抜きますが、最後は敵のど真ん中に置き去りにされて戦死してしまいます。
指揮官に渡された手紙にはこう書かれていました。
「ウリヤを最前線に送り、亡き者にするように。」…と。
ウリヤの戦死を聞いたダビデは、バト・シェバを正式に妻として迎え入れます。
しかし、彼は十戒の一つである姦通の罪を犯したことで、預言者からこう言われます。
「神の怒りによって、あなたとバト・シェバの子は生まれてまもなく死ぬであろう。」
ダビデはひどく後悔しましたが、それでもバト・シェバを愛し遠ざけようとはしませんでした。
やがて生まれてきた子は死んでしまいますが、その次の子には神の罰は与えられないため、新たに子を授かります。
子の名前はソロモン。
ダビデ王の後継者であり、和平交渉、通商化をすすめイスラエル王国にかつてない繁栄をもたらすことになりますが、それはまた別のお話…。
美術としてのバト・シェバ
ハンスは水浴びを終えたバト・シェバを遠くからダビデ王が見ている場面を描いています。
ハンス・メリムンクが得意とする少し緩んだ表情が、妖艶さを醸し出しています。
3つある祭壇画の右部分として飾られていたとされています。
ヤン・マッサイスは、ダビデ王の部下がバト・シェバのもとに出向き王の要求を伝えている場面を描いています。
部下が連れている中型犬とバト・シェバが連れている小型犬は、それぞれの権威を象徴するものとされています。
ダビデ王は奥から覗いていますね。
レンブラントの弟子であるウィレム・ドロステは、バト・シェバの肌と背景の陰影を強調して描きました。
手紙についた折り目と彼女の表情から、自問自答している姿が印象に残ります。
レンブラント・ファン・レインはバト・シェバがダビデ王からの手紙を持っている様子を描きました。
手紙に何が書いてあるのを読み取ることはできませんが、彼女の表情からは王の要求に対しての憂いが感じられます。
ジャン=レオン・ジェロームはダビデ王を魅了し狂わせた彼女の裸体をテーマとして描いています。
空の開放感と相まって彼女の魅力が全面に現れていることが感じられます。
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