科学

腸内細菌とパーキンソン病:意外な関連性と治療の可能性

科学

長年にわたり、科学者たちは人間の腸と脳の間に密接なつながりがあることを示唆してきました。

  

昨今では「腸脳相関」と呼ばれるこのメカニズムですが、神経変性疾患の一つであるパーキンソン病の発症にも深く関与している可能性が示されています。

    

名古屋大学の医学研究者、西脇 寛氏とそのチームが2024年5月に発表した研究では、腸内細菌の変化がこの疾患の重要な要因であり、特にビタミンB群の不足が病気の進行に影響を与えることが明らかになりました。

  

この発見は、パーキンソン病治療における新たな道を開くものとして注目されています。

  

今回のテーマとして取り上げていきます。

  

参考記事)

Parkinson’s Link to Gut Bacteria Suggests an Unexpected, Simple Treatment(2024/12/04)

 

参考研究)

Meta-analysis of shotgun sequencing of gut microbiota in Parkinson’s disease(2024/05/21)

 

 

パーキンソン病とは?

 

パーキンソン病(Parkinson diseaseは全世界で約1,000万人に影響を及ぼす神経変性疾患です。

 

この病気は、ドーパミンを生成する脳の細胞が徐々に破壊されることで、運動機能認知機能に深刻な影響を及ぼします

 

症状としては、筋肉の硬直、震え、バランスの喪失が主ですが、初期段階では便秘や睡眠障害といった一見関連性の薄い問題から始まることが多いです。

 

また、これらの初期症状は、主な運動症状が現れる20年以上も前から現れることが分かっており、その体のサインを見過ごすことも多いこともこの病気の恐ろしい点です。 

  

過去の研究では、パーキンソン病患者の腸内細菌に変化が見られることが報告されており、腸内環境が病気の進行に大きな影響を与える可能性が示唆されています。

 

この観点から、腸内環境の改善が症状の進行を遅らせる新しい治療法として注目されています。

 

腸内細菌とビタミンB群の関係

西脇氏の研究チームは、日本国内のパーキンソン病患者94人と健康な対照者73人の便サンプルを収集・分析しました。

 

その結果、パーキンソン病患者では腸内細菌の種類と活動に顕著な変化が見られました。

 

Meta-analysis of shotgun sequencing of gut microbiota in Parkinson’s disease より

 

このデータを中国、台湾、ドイツ、アメリカのデータと比較したところ、国ごとに関与する細菌の種類は異なるものの、いずれのグループでもビタミンB群の合成に関連する経路に共通した影響が見られることが判明しました。

 

特に、リボフラビン(ビタミンB2)とビオチン(ビタミンB7)を合成する能力を持つ腸内細菌が減少していることが確認されました。

 

このビタミンB群の不足は、短鎖脂肪酸(SCFAs)の減少、毒性物質への脆弱性をはじめとした腸内環境の悪化を招きます。

 

 

短鎖脂肪酸(SCFAs)とポリアミンの減少 

これらの分子は、腸の粘膜層を保護し健康を維持する役割を果たしています。

 

しかし、ビタミンB群の不足によってこれらの分子が減少し、腸粘膜が薄くなり、腸壁の透過性が高まります。

 

この状態は「腸漏れ症候群(リーキーガット)」とも呼ばれ、パーキンソン病患者でよく見られる症状です。

 

  

毒性物質への脆弱性

腸壁が弱まることで、腸内の神経系が毒性物質(農薬、除草剤、化学物質など)にさらされやすくなります。

 

これにより、αシヌクレインと呼ばれる異常なタンパク質が脳内で蓄積し、神経細胞の炎症や破壊を引き起こします。

(αシヌクレイン=脳神経細胞に存在するタンパク質で、パーキンソン病やレビー小体型認知症、多系統萎縮症などの神経変性疾患の発症と関連すると考えられている

 

この過程は、最終的にパーキンソン病の主要な症状である運動障害や認知症につながります。

  

 

ビタミンB補給による治療可能性

 

これらの発見を基に、西脇氏のチームはビタミンBの補給がパーキンソン病治療の新たな選択肢となり得ると提案しています。

 

実際、2003年の研究では、高用量のリボフラビンを摂取し、赤身肉を除外した食事を取ることで、パーキンソン病患者の運動機能が一部回復することが示されています。

 

さらに、腸内細菌のバランスを改善することで、毒性物質への耐性を高める可能性があります。

 

このため、腸内環境の解析を行い、リボフラビンやビオチンが不足している患者に対して、これらの栄養素を補給する治療法が期待されています。

  

西脇氏は、「(研究が進むことで)腸内細菌や代謝物の分析を通じて、個々の患者に最適な治療法を提供することが可能になるだろう」と述べています。

 

パーキンソン病は複雑な疾患であり、すべての患者が同じ原因で発症しているわけではありません。

 

そのため、個々の患者に合った治療法を見つけるにはさらなる研究が必要です。

  

同時に、環境中の毒性物質を減らし、腸内環境を健全に保つことも重要です。

 

 

まとめ

・腸内細菌の変化とビタミンB不足が、パーキンソン病の発症と進行に深く関与していることが明らかになった

・ビタミンB2(リボフラビン)とビタミンB7(ビオチン)の補給が、腸内環境を改善し、症状の進行を遅らせる可能性がある

・腸内環境にフォーカスした治療法の開発が、より効果的なパーキンソン病治療につながることが期待される

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