科学

【研究】どうやっても取れない慢性疲労の原因は、WASF3によるミトコンドリアの機能不全かもしれない【要約】

科学

  

慢性疲労は多くの人が感じている衰弱症状の一つです。

  

いくら休んでも疲れが取れない……、運動して気持ちよく寝ようとしてもむしろ悪化する……などなど、どうやっても取れない疲れを感じている場合は、そうかもしれません。

  

今回紹介するのは、そんな慢性疲労についてのお話。

  

病的な疲労の原因はあるタンパク質が原因かもしれません。

  

参考記事)

This Protein Could Be Responsible For The Exhaustion in Chronic Fatigue Syndrome(2023/08/16)

  

参考研究)

WASF3 disrupts mitochondrial respiration and may mediate exercise intolerance in myalgic encephalomyelitis/chronic fatigue syndrome(2023/08/14)

  

  

WASF3によるミトコンドリアの機能不全

  

アメリカ メリーランド州 国立心肺血液研究所の研究では、ミトコンドリアの機能不全がME/CFS(筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群)やCOVIDのような病気の原因かもしれない証拠を発表しました。

  

私たちの細胞の中には、エネルギー製造装置であるミトコンドリアが存在し、機械におけるバッテリーのような機能を果たしています。

  

ME/CFSの患者はまるで電池切れのようにエネルギーが枯渇しているよう感じることが多いと言われています。

  

研究所の医師科学者ポール・ホワン氏らは、ある女性(38歳)の患者を対象に慢性疲労の症状を調査していたところ、WASF3というタンパク質のレベルが非常に高いことが検出されました。

  

この女性はエプスタイン・バー・ウイルスによる感染症に10代で感染した後、疲労が悪化したことが分かっています。

  

ウイルスと炎症はミトコンドリアを損傷する可能性があり、それによってエネルギー生産に問題を起こすと考えられていますが、その正確なメカニズムは未だ不明です。

  

今回疑われたWASF3というタンパク質は、2011年の大規模調査によって慢性疲労症候群との関連性が指摘されたことがありましたが、その後追跡調査などが行われておらず情報が不完全でした。

  

この女性の血液を調べたところ、極度の疲労の症状が、このタンパク質の過剰発現と関連しているという疑いが再浮上し研究に目が向けられるようになりました。

  

培養細胞を使った実験では、WASF3に晒された細胞は通常エネルギー生産をサポートするために結合しているタンパク質複合体を妨害することにより、ミトコンドリアが機能を失う(破壊される)ことを発見しました。

  

WASF3を過剰に発現させたマウスもまたミトコンドリアの機能障害を起こし、その後の運動テストでもすぐに疲労することが分かりました。

  

38歳の女性の筋肉を検査した結果、彼女のミトコンドリアは短時間の運動でエネルギーを消費してしまうことが分かりました。

  

続く研究では、ME/CFS患者の14人の筋肉サンプルを調べました。

  

検査の結果、サンプル内の筋肉ではWASF3の値が上昇していることを発見しました。

 

健常対照者10人と比較しても、ME/CFS患者は筋肉細胞内のミトコンドリアタンパク質複合体のレベルが低いことが分かりました。

   

WASF3の値がなぜ上昇するのか……。

  

研究者らは、ミトコンドリアと密接な関係にある小胞体(ER)にストレスがかかったのではないかと考えました。

  

マウスを対象に小胞体ストレスを誘導すると、やはりWASF3のレベルが上昇するという結果が得られました。

  

一方、小胞体ストレスを阻害する薬剤で細胞を処理すると、WASF3レベルが低下しミトコンドリアの機能が回復することも分かりました。

  

因果関係を示すためにはさらなる研究が必要ですが、慢性疲労などの根本的な原因を突き止め、それを治療するための方法を見つける大きな一歩と考えられます。

  

詳しい研究内容についてはPNASにて確認可能です。

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