科学

世界初:幹細胞が一型糖尿病の治療法に希望(南開大学)

科学

飽食を生きる現代、生活習慣病は世界でも深刻な健康問題として取り上げられています。

 

国際糖尿病連合(International Diabetes Federation;IDFによる調査をまとめた“Diabetes Atlas第10版(2021年版)”では、2021年時点での糖尿病人口は5億3,700万人(成人の10人に1人)となり、2045年までには7億8,300万人にまで増加すると見込まれています。

 

その9割以上が、食生活の乱れや運動不足などを原因とする二型糖尿病です。

 

二型糖尿病は、高糖質、高脂質の食品を避けることや定期的な運動などの予防に努めることで糖尿病の発症を抑えることが可能なだけでなく、健康的な習慣を続けることでその他の病気を防ぐことにも繋がります。

 

ここで問題なのは一型糖尿病です。

 

一型糖尿病は、生まれつきの膵臓が機能不全や免疫異常によって膵臓の機能が正常に働かない病気です。

 

肝臓のランゲルハンス島(β細胞)からインスリンの分泌が適切に行われず、血液中の血糖のコントロールが効かなくなることで糖尿病の症状が現れます。

 

糖尿病患者の0.11%ほどがこの一型糖尿病とされ、インスリン注射や食事、運動などを通して一生病気と付き合っていく必要があります。

 

前置きが長くなってしまいましたが、今回取り上げるのは、この一型糖尿病患者に希望の光が差し込むやもしれない研究についてです。

 

 

参考記事)

World First: Stem Cells Reverse Type 1 Diabetes in Clinical Trial(2024/10/09)

 

参考研究)

Transplantation of chemically induced pluripotent stem-cell-derived islets under abdominal anterior rectus sheath in a type 1 diabetes patient(2024/09/25)

 

 

幹細胞の注射と一型糖尿病

 

2023年6月、南開大学の研究者たちは、一型糖尿病の女性に対して行った幹細胞の注入が一定の効果を示した旨の研究結果を発表しました。

 

研究では、患者の腹部の筋肉に約150万個のインスリンを生成する細胞を注入しました。

 

これらの細胞は、彼女自身の幹細胞から再プログラムされたものです。

 

2ヶ月半後、彼女は糖尿病に伴って常時必要となるインスリン注射から完全に解放され、難治性の糖尿病に改善の兆しが現れたことが示されました。

 

移植から4ヶ月以上が経過した今でも、彼女の体は十分なインスリンを自然に生成し、1日の98%以上を安全な血糖値の範囲内で過ごせるようになっています。

 

Transplantation of chemically induced pluripotent stem-cell-derived islets under abdominal anterior rectus sheath in a type 1 diabetes patient より

 

もしこの患者が今後もインスリンを自然に生成し続ければ、彼女は「治癒」と見なされ、科学文献において初の成功例となる可能性があります。

 

研究には関与していない京都大学医学研究科の糖尿病研究者である矢部大介氏は、「効果は驚異的であり、他の患者にも応用できるなら素晴らしいことだろう」とNatureの記者に語っています。

  

中国の研究者たちは、すでにこの試験を新たな患者にも拡大する計画を立てており、今回対象となった女性の治療が成功したことで、全世界的な治療法の可能性が現実に近づいていることが伺えます。

 

 

細胞治療に大きな一歩

一型糖尿病は、体の免疫システムがインスリンを生成する膵臓の細胞群であるランゲルハンス島を攻撃することで発症します。

 

ドナーから一型糖尿病患者にランゲルハンス島や膵臓全体を移植することで治癒する場合もあります。

 

しかし、移植に際して拒絶反応が見られるなど非常に危険な選択肢であり、世界中の何百万もの自己免疫疾患患者に対して、適合するドナーはあまりに少ないことが現状です。

 

過去20年以上にわたり、科学者たちは成人から採取した細胞を未分化の状態に戻し、その後インスリンを生成する細胞に変換するための研究を続けてきました。

 

しかし、その過程は非常に困難で、最終的に変化したものが必ずしも本物のランゲルハンス島と一致するわけではありません。

 

中国の研究者たちは、幹細胞に特定のタンパク質を導入する代わりに、小分子を使って幹細胞をプログラムし直し、成人組織を未分化の状態に戻す技術を開発しました。

 

この技術はマウスや霊長類で成功と安全性を確認した後、研究チームはヒトでの臨床試験の承認を得ました。 

 

この試験は進行中で、現在3人の患者が参加しています。

 

その中の一人が、14歳で一型糖尿病と診断された26歳の女性(今回の成功例)であり、試験開始から1年経過した結果が報告されました。

 

この患者は、以前にも深刻な低血糖症のため膵臓移植を受けていましたが、移植された臓器は「深刻な血栓症の合併症」のために摘出されました。

 

これまでのところ、彼女の幹細胞移植は免疫抑制剤との併用でより効果的に機能しているようです。

 

この研究結果は、他の幹細胞移植に関する臨床試験の結果とも合致し、さらなる研究の必要性を示唆しています。

 

例えば、アメリカで行われた試験では、一型糖尿病患者12人に対してドナーの幹細胞から作られたランゲルハンス島が移植されました。

 

このグループも免疫抑制剤による治療を受けました。

 

初期結果によると、12人全員が血糖値が上昇したときに自然にインスリンを生成し始めたとのことです。

 

研究者たちは、「この結果はさらなる臨床研究を支持するものであり、細胞治療の可能性を示す大きな一歩である」と述べています。

 

  

まとめ

・一型糖尿病は、先天的な膵臓の機能不全が原因で、患者はインスリン注射を続ける必要がある

・南開大学の研究チームは、幹細胞から再プログラムされたインスリン生成細胞を一型糖尿病患者に移植し、患者がインスリン注射から解放されるという成果を得た

・この治療は、一型糖尿病の新たな治療法として期待されている。

・幹細胞治療は他の患者でも効果が見られ、さらなる臨床研究が必要とされている

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