科学

ホワイトマッシュルームの可能性:前立腺がん治療への新たな道を発見

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医療効果が注目されるキノコといえば、ヤマブシタケ(Lion’s mane mushroom)霊芝(Ganoderma lucidum)など、奇抜で仰々しい種類を思い浮かべる人が多いかもしれません。

 

ヤバブシタケ(Alison Northup より)/ 霊芝(ヘブンリーブルー より)

 

しかし、実はもっと身近なキノコにも、驚くべき健康効果が隠されている可能性があります。

 

その筆頭として挙げられるのが、“ホワイトマッシュルーム(Agaricus bisporus)”です。

 

日本では単に「マッシュルーム」として知られているキノコで、食用としても様々な料理に使用されています。

 

 

近年、クイーンズランド大学から発表された研究によると、このマッシュルームの抽出物が前立腺がんの進行を遅らせたり、さらには予防する可能性があることが示されています。

 

本研究は、食品を医薬品として活用する新たな可能性を切り開く重要な一歩となるとして注目を浴びています。

 

以下に研究の内容と展望についてまとめます。

 

参考記事)

Mushroom Extract Shown to Dramatically Improve Brain-Cell Growth in The Lab(2024/12/07)

 

参考研究)

Hericerin derivatives activates a pan-neurotrophic pathway in central hippocampal neurons converging to ERK1/2 signaling enhancing spatial memory(2023/01/20)

 

 

前立腺がんとホワイトマッシュルーム

クイーンズランド大学の研究チームは、マッシュルームの抽出物が補助療法としてがんの進行を抑える「ニュートラシューティカル(栄養医薬)」アプローチの一環として役立つ可能性を見出しました。

   

研究では、マッシュルーム抽出物の可能性を探るために、以下の3つのステージで研究が進められてきました

   

1. 第I相臨床試験:人間を対象に抽出物の安全性と初期効果を評価

2. マウス実験:がん細胞への影響を動物モデルで検証

3. 第II相臨床試験:患者の血液サンプルを用いてメカニズムを調査

   

•第I相臨床試験

マッシュルーム抽出物を含むタブレットを毎日摂取した患者の中には、血液中のがんマーカーが検出不能になるケースが見られました。

また、骨髄由来抑制細胞(MDSC)の減少も確認されています。

   

•マウス実験

マッシュルーム抽出物を投与したマウスでは、腫瘍の成長が顕著に遅くなり、生存期間が延長しました。

血液中の腫瘍由来の抑制細胞が減少したことが判明しています。

   

•第II相臨床試験

患者の血液中で、MDSCが減少し、腫瘍と戦う免疫細胞の数が増加する傾向が観察されています。

   

前立腺がんは、骨髄由来抑制細胞(MDSC)と呼ばれる未熟な白血球を生成することで体の免疫反応を抑えがんを進行させてしまいます

     

これが、がん治療の効果を阻害する大きな要因となっています。

   

しかし、マッシュルーム抽出物には、この「免疫抑制シールド」を破る力がある可能性が示されています。

   

このことから、一次治療後の補完療法として活用することで、患者の免疫力を高め、がんの再発や進行を抑える手助けが期待されています。 

  

マウス実験の補足としては、ヤマブシダケに含まれる化合物『N-デフェニルエチルイソヘリセリン(N-de phenylethyl isohericerin)』と、『ヘリセンA(hericene A)』と呼ばれる疎水性誘導体を分離し、マウスの胚から培養されたニューロンへの影響をテストしました。

 

これを含む抽出物には“明確な神経栄養効果”があり、ニューライト(神経細胞の細胞体から伸びる突起)の数が3倍以上であると研究者らは述べています。

 

また、「植物由来の物質が、将来的にはがんの伝統的な治療法や予防法を補完する手段として活用されるかもしれない今回の研究は、食品を医薬品として活用するという考えが、証拠に基づいたがん治療の標準として普及する可能性を示唆している」と研究結果の今後に期待を寄せるコメントを述べています。

  

 

抽出物のメカニズムと課題

 

マッシュルーム抽出物に含まれる具体的な成分が何であるかは未だに明らかではありません。

 

植物やキノコ由来の物質には、膨大な種類の化学物質が含まれ、それらが複数の経路でがんに対抗している可能性があります。

   

化学成分

抽出物には以下のような成分が含まれていると考えられています。

 

• 可溶性食物繊維:腸内細菌をはじめとした免疫システムを刺激する

• タンパク質と脂質:細胞の成長や代謝に影響を与える

 ファイトケミカル(植物化学物質):抗酸化作用や抗炎症作用を持つ可能性

  

研究者たちは、抽出物のメカニズムを特定するための作業を進めていますが、それには時間と労力が必要です。

 

現在の臨床試験は主に安全性と有効性の評価に焦点を当てており、具体的な作用メカニズムの解明は今後の課題とされています。

 

研究者は、「研究はまだ初期段階だが、日常生活に新鮮なマッシュルームを取り入れることは健康に良い影響を与えるかもしれない」と述べています。

 

遠くない未来、マッシュルームの摂取が、がん治療だけでなく、健康全般においても有益であることが明らかにされるかもしれません。

 

 

まとめ

・マッシュルーム抽出物は、免疫力を高め、がんの進行を抑える効果が期待されている

・MDSCの減少や抗腫瘍免疫細胞の増加が確認され、腫瘍の成長を遅らせる可能性が示されている

・研究は初期段階だが、マッシュルームを食生活に取り入れることは健康に有益であり、特に前立腺がん予防の可能性が期待されている

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