モンサント社によるゴーストライティング ── 25年に及ぶ論文撤回問題に進展

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除草剤「Roundup(ラウンドアップ)」の主成分として世界中で広く使用されてきたグリホサートに関し、その安全性を強調してきた代表的な科学論文が、発表から25年を経て撤回されました。

 

論文の撤回理由には、化学企業モンサントによるゴーストライティング疑惑や、著者の独立性を損なう重大な倫理問題が指摘されており、農薬の安全性評価に対する科学界と社会の信頼を揺るがす出来事となっています。

  

多くの行政文書や研究者が参照してきた論文が後年になって撤回された事実は、グリホサートの人体影響をめぐる議論の複雑さを改めて浮き彫りにしています。

 

今回は、そんな論文と倫理問題がテーマです。

   

参考記事)

Retracted: The Monsanto-Backed Paper That Told Us Roundup Was Safe(2025/12/09)

 

 

モンサント関与疑惑で25年後に撤回された論文とは何か

 

今回撤回されたのは、2000 年に学術誌「Regulatory Toxicology and Pharmacology」に掲載された、Gary Williams氏、Robert Kroes氏、Ian Munro氏 の3名によるレビュー論文です。

  

いずれの著者も表記されており、企業とは独立した科学的評価を行ったとされていました。

   

しかし、その後の裁判や内部文書の公開を通じて、論文の一部が モンサント社の社員によって執筆されていた可能性が高いことが指摘され、学術界の議論は長年続いていました。

  

本論文の主張は、「グリホサートはヒトに対して発がん性や毒性を示す明確な証拠はない」というもので、長年にわたりグリホサート安全性の根拠として引用され続けてきました。

 

実際にこの論文は、800 件を超える学術研究や複数の政府系文書、さらには Wikipedia の記事などにも広く引用されており、世論形成に強い影響を及ぼしてきたと指摘されています。

  

 

撤回の経緯:学術誌編集部が指摘した“重大な倫理問題”

本論文が正式に撤回されたのは 2025 年 11 月であり、学術誌の共同編集長である Martin van den Berg氏が撤回声明を発表しました。

 

彼は、著者の独立性が担保されていない可能性があること、モンサント社の社員が論文執筆に関与した疑いがあること、そして経済的利益の非開示 など複数の問題を挙げています。

 

特に問題視された点として、以下が挙げられています。

• 発がん性や遺伝毒性の評価が、当時未公開だったモンサント社の内部研究のみを基礎としていたこと

• 同時期にすでに存在していた長期毒性研究の多くを論文が参照していなかったこと

• モンサント社から著者が金銭的支援を受けていた可能性があるにもかかわらず、その利益相反が明記されていなかったこと

 

これらの問題は、科学的信頼性だけではなく、学術倫理の根幹に関わる重大な欠陥です。

 

 

企業関与の疑い:2017 年の裁判が明らかにした“ゴーストライティング”

論文撤回の大きな契機となったのが、2017 年にアメリカで行われた裁判です。

   

この裁判では、モンサント社の内部メールが証拠として提出され、同社社員が安全性評価文書の執筆を担い、学術専門家が名前だけを貸す形で論文が完成していたとされる状況が次々と明らかになりました。

  

この事実は、学術論文の独立性を著しく損なうものであり、科学界に深刻な問題として受け止められました。

  

ただし、どの部分をモンサント社員が執筆したのかは完全には特定されておらず、依然として曖昧な点が残っていると撤回声明でも明記されています。

 

 

グリホサートと発がんリスク:国際機関間で評価が割れる理由 

グリホサートは、世界中で最も使用されている除草剤成分のひとつです。

 

大規模農業から家庭菜園まで幅広く利用されていることから、健康影響をめぐる議論は国際的にも非常に重要なテーマとなっています。

 

2015 年には、世界保健機関(WHO)の国際がん研究機関(IARC) がグリホサートを 「ヒトに対しておそらく発がん性がある(Group 2A)」 と評価しました。

 

これは主に動物実験の結果に基づいています。

 

一方で、各国の規制機関や一部の研究機関は、「通常の使用条件であればリスクは低い」と異なる評価を示しています。

こうした評価の相違については、参照する研究の範囲、企業提供データへの依存の度合い、発がん性の定義や評価基準などが異なるためであり、どの結論が最も適切かは依然として明確ではありません

 

 

農業への影響:ラウンドアップと“耐性作物”の関係

 

モンサント社は 1974 年にラウンドアップ(Roundup)を販売開始し、その後、同社は 「Roundup Ready」作物 を開発しました。

 

これらの作物は遺伝子組換え技術によってグリホサートに耐性を持つよう設計されていることが特徴です。

  

耐性作物として普及しているのは以下の主要作物です。

• 大豆

• トウモロコシ

• ナタネ

• 綿花

• アルファルファ

• 甜菜(ビート)

など

 

この仕組みにより、農家は畑全体に広範囲でグリホサートを散布し、雑草だけを除去することが可能となりました。

 

しかし、こうした農業手法の拡大は、雑草の除草剤耐性進化や生態系への影響などの懸念と隣り合わせでもあります。

  

 

科学界が直面する“信頼性の危機”

今回の論文撤回が特に問題視される理由は、単なる研究不正ではなく、25 年間にわたって安全性の根拠として引用され続けてきた論文が撤回されたことにあります

ハーバード大学の科学史研究者である Naomi Oreskes氏は、撤回論文が、800本以上の研究論文、多数の政府文書などに引用されている点を指摘し、情報の連鎖的な信頼性低下の可能性を警告しています。

 

特に現在、Wikipediaの情報は多くの 大規模言語モデル(LLM) が学習データとして利用しているため、誤った元論文が長期的に影響を与えた可能性は否定できません

 

ただし、Oreskes の指摘する「影響の範囲」については、LLM 各社の学習データが公開されていないため、どの程度実際に取り込まれているかは不確実であり、明確なデータは存在していません

 

 

企業側の主張と巨額の訴訟問題

 

2018 年にモンサント社はバイエル(Bayer)に買収されましたが、バイエルは現在も「ラウンドアップは指示どおりの使用において安全である」という立場を維持しています。

しかし、アメリカでは

• 2020 年時点で 100 億ドル以上の和解金 が支払われ

• 6 万 7,000 件以上 の訴訟が継続中

と、法廷における争いは収束していません。

 

これらの訴訟の多くは、ラウンドアップ使用と悪性リンパ腫発症の関連性を主張したものですが、因果関係については研究間で一致した見解が得られておらず、科学的には依然として議論が続いています

 

 

今後に求められるもの:真に独立した研究と透明性 

今回の論文撤回は、「科学的評価の独立性」「利益相反の透明性」「企業提供データへの依存」という課題を世界に突きつけています。

  

グリホサートが人体にどの程度のリスクをもたらすかは、

• 長期曝露の影響

• 子どもや妊婦など脆弱集団への影響

• 生態系全体への影響

など、未解明の領域がまだ多く残っています。

 

そのため、専門家は今後、企業から独立した研究機関による長期的で透明性の高い研究が必要であると指摘しています。

  

  

まとめ

・25年間にわたり引用され続けたグリホサートの安全性に関する論文が、モンサント関与疑惑などの重大な倫理問題により撤回された

・このことは、科学界の信頼性に深刻な影響を与え、関連する学術論文やそれらを引用した企業の販売促進などの見直しが迫られている

・グリホサートの発がん性評価は国際機関間でも一致しておらず、依然として不確実性が大きく、真に独立した研究が強く求められている

・企業提供データへの依存や利益相反非開示といった問題を防ぐため、科学的評価プロセスの透明性向上が国際的に重要課題となっている

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