科学

マイクロプラスチックによる脳血栓と神経行動異常の可能性

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環境汚染によるマイクロプラスチック(MP)の人体への影響が深刻な問題となっています。 

 

近年の研究では、MPが血流に入り込むことで臓器の生理機能を阻害する可能性が指摘されています。(不妊症、腸への害、肺機能障害……マイクロプラスチックが引き起こす健康リスクより

 

特に、ナノサイズのプラスチック粒子は血液脳関門(BBB)を通過し、脳組織に侵入することが確認されており、神経毒性を持つ可能性が高いとされています。

 

しかし、MPが脳機能にどのような影響を及ぼすのか、その具体的なメカニズムは未解明でした。

 

今回紹介する北京(中国)環境科学研究院による研究では、高解像度のレーザーイメージング技術を用いて、マウスの脳内でMPがどのように分布し、影響を及ぼすのかをリアルタイムで観察しました。

 

その結果、MPは免疫細胞に取り込まれた後、脳皮質の毛細血管内で閉塞を引き起こし、血栓の形成による血流の低下と、それに伴う神経行動異常を発生させることが明らかになりました。

 

本研究は、MPが直接脳組織に侵入するのではなく、血管内の細胞閉塞を介して血液循環を妨げることによって、間接的に脳機能を阻害するという新たなメカニズムを示しています。

 

この知見は、MPの人体への毒性影響を理解するための重要な手がかりとなるでしょう。

 

以下に研究の詳細をまとめます。

 

参考研究)

Microplastics in the bloodstream can induce cerebral thrombosis by causing cell obstruction and lead to neurobehavioral abnormalities(2025/02/01)

 

 

研究の目的

これまでの研究で、マイクロプラスチックがヒトの血流に存在することが確認されていますが、脳機能にどのような影響を与えるのか、そのメカニズムは明らかになっていません

 

研究者が注目する未解明のメカニズムは以下の点です。

 

1. MPがどのようにして脳に到達するのか

2. MPが脳内でどのような物理的・生理的変化を引き起こすのか

3. MPが神経行動に及ぼす影響の程度

 

本研究では、この謎を解明すべく高解像度イメージング技術を用いて、MPが脳血管内でどのように動き、血流や神経機能にどのような影響を与えるのかを解析しました。

 

 

研究の過程

研究では、マウスを用いた実験を通じて、MPが血流に与える影響を観察しました。

 

以下のステップで研究を進めました。

 

1. マイクロプラスチックの投与

まず、MPが血流をどのように移動し、どの部位に蓄積するのかを可視化するため、蛍光標識されたマイクロプラスチック粒子(直径1~5μm)が使用されました。

• 実験群(MP投与群):MPを静脈注射で投与

• 対照群(MP非投与群):MPを投与せず、通常の生理食塩水を注射

  

 

2. マウスの脳内血管の観察

次に、高解像度レーザーイメージング技術(二光子顕微鏡)を用いて、マウスの脳血管をリアルタイムで観察されました。

• マウスの頭部に小さな開口部を作り、脳表面の血管を直接観察できるように手術

• 蛍光標識したMPの移動を追跡し、血管内での蓄積や閉塞の有無を解析

• MPの流れの速度、血管閉塞の発生率を測定

 

  

3. 血流の変化と血管閉塞の評価

MPが血流にどのような影響を与えるのかを確認するために、血流速度や血管閉塞の有無を測定しました。

MP投与3時間後の脳内のスキャン画像 水色=細胞の閉塞が見られた部位 (Microplastics in the bloodstream can induce cerebral thrombosis by causing cell obstruction and lead to neurobehavioral abnormalitiesより)

• 血流速度の低下が観察され、MPが免疫細胞に取り込まれた後に血管閉塞を引き起こすことが確認された

• 血管内でのMPの滞留時間を測定し、MPが血管内で長期間留まる可能性を評価

 

 

4. 神経行動テストの実施

MPが脳機能にどのような影響を与えるのかを調べるために、以下の神経行動テストを実施しました。

1. 運動能力テスト(回転棒テスト):バランス能力や運動協調性を評価

2. 記憶テスト(Y字迷路):空間記憶能力を評価

3. 不安行動テスト(オープンフィールドテスト):マウスの探索行動やストレスレベルを測定

PBS=コントロール群、MPs=マイクプラスチック投与群 (Microplastics in the bloodstream can induce cerebral thrombosis by causing cell obstruction and lead to neurobehavioral abnormalitiesより)

 

テストから、MP処理されたマウスは対象群よりも総移動距離も短い上に移動速度が遅く、ハンギング(棒にぶら下がり続ける能力)も低下していることに加えて、ワークングメモリの大幅な減少が見られました。

 

これに加え、運動能力、記憶、ストレス耐性のすべてのテストで成績が低下していることが確認されました。

 

 

5. 血栓の形成と脳機能低下の関係の分析

最後に、MPによる血栓形成と脳機能の低下が関連していることを統計解析しました。

• MPによる血管閉塞が、神経行動の異常を引き起こす直接的な要因であることが示唆された

• MPが脳組織そのものに侵入するのではなく、血管の詰まりを通じて間接的に影響を与えていることが判明

 

 

研究の結果と考察

本研究の結果、MPは血流を介して脳に到達し、血管閉塞を引き起こすことで神経行動異常を誘発することが明らかになりました。

 

• MPを取り込んだ免疫細胞が毛細血管を塞ぎ、血流の低下を引き起こす

• 血流の低下が神経機能の障害を引き起こし、記憶力や運動能力が低下する

• MPが長期的に蓄積すると、脳卒中や神経変性疾患のリスクを高める可能性がある

 

本研究は、マイクロプラスチックが脳機能に及ぼす影響を理解するための重要な一歩となり得ます。

 

今後は、人がMPを暴露した際の健康リスクの評価が行われると同時に、環境に流出するこれらの物質への対処法についても期待が持たれています。

 

 

まとめ

・マイクロプラスチックは血流に乗って脳に到達し、血管閉塞を引き起こすことが明らかになった

・これによる血流障害が神経行動異常や認知機能低下の原因となることが確認された

・マイクロプラスチックが長期的に脳卒中や心血管疾患のリスクを高める可能性があるためさらなる研究が必要

 

 

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