近年、腸内環境が健康全般に与える影響についての研究が進んでいます。
そんな中、ケンブリッジ大学による新たな研究から特定の腸内細菌が感染症のリスクを低減させる可能性が示されました。
この研究では、腸内に「善玉菌」の一種である Faecalibacterium(フィーカリバクテリウム)が多く存在する人は、有害な腸内細菌のレベルが低いことが確認されました。

Faecalibacterium は食物繊維をエサにして増殖する細菌であるため、食物繊維を多く含む食事が腸内感染症の予防に寄与する可能性があると研究者は述べています。
ただし、専門家はこの研究結果を検証すべく、さらなる研究が必要であるとも指摘し、腸内環境を整えるためには、単一の食品や栄養素に頼るのではなく、バランスの取れた食生活が重要であると強調しています。
以下に研究の詳細についてまとめていきます。
参考研究)
・Ecological dynamics of Enterobacteriaceae in the human gut microbiome across global populations(2025/01/10)
腸内細菌が健康に与える影響とは?
腸内環境は個人差があり、人それぞれ異なる腸内細菌のバランスを持っています。
腸内には数兆もの細菌やウイルス、その他の微生物が生息しており、食物の分解や免疫機能の維持に関与しています。(What defines a healthy gut microbiome?より)
これらの微生物は複雑な相互関係を持っており、研究者たちはどの細菌が健康にどのような影響を与えるのかを解明しようとしています。
2024年1月10日にNature Microbiologyに発表された研究(参考研究)では、腸内に Faecalibacterium のレベルが高い人は、Enterobacteriaceae(エンテロバクテリア科)に属する細菌のレベルが低いことが分かりました。
Enterobacteriaceae には、E. coli(大腸菌)、Klebsiella pneumoniae(クレブシエラ・ニューモニエ)、Shigella(赤痢菌)などの細菌が含まれており、高濃度になると重篤な感染症を引き起こす可能性があります。(The Role of Enterobacteriaceae in Gut Microbiota Dysbiosis in Inflammatory Bowel Diseasesより)
この研究結果は、腸内細菌のバランスが、感染症に対する抵抗力に関係している可能性を示唆しています。
つまり、腸内細菌の組成が、その人が有害な細菌にどの程度感染しやすいかを予測する指標となる可能性があるということです。
この研究の筆頭著者であるAlexandre Almeida氏(ケンブリッジ大学)は、「腸内環境を調べることで、その人が潜在的に有害な細菌にどれだけ影響を受けるかが分かる可能性がある」と述べています。
Faecalibacterium を増やすことで腸内感染を防げる?

Faecalibacterium は食物繊維をエサにする細菌であり、腸内で短鎖脂肪酸(SCFA)を生成することで健康を維持する働きを持っています。(Relationship Between Dietary Fiber Intake and Short-Chain Fatty Acid–Producing Bacteria During Critical Illness: A Prospective Cohort Studyより)
短鎖脂肪酸には以下のような効果があります。
• 腸内の炎症を抑える
• 腸のバリア機能を強化し、病原菌の侵入を防ぐ
• E. coliやKlebsiellaなどの有害な細菌の増殖を抑える
このことから、食物繊維の摂取が Faecalibacterium の増殖を促し、最終的に腸内環境を良好に保ち、感染症のリスクを低減する可能性があると考えられています。
しかし、専門家は食物繊維の摂取が直接的に腸内感染のリスクを下げるという証拠はまだ不十分であると指摘しています。
腸内環境を整えるための食生活とは?

腸内環境を整えるためには、特定の細菌を増やすことに固執するのではなく、腸内細菌の多様性を維持することが重要です。
腸内細菌は熱帯雨林やジャングルのような生態系と同じであり、バランスが崩れると全体の健康に影響を及ぼします。
そのため、以下のような食生活を心がけることが推奨されています。
1. 多様な食品を摂取する
単一の食品に偏らず、果物、野菜、全粒穀物、ナッツ、豆類、発酵食品、魚、鶏肉をバランスよく食べることが大切です。
2. 食物繊維を十分に摂取する
食物繊維は腸内細菌のエサになり、健康な腸内環境を維持するのに役立ちます。成人は1日あたり22~36グラムの食物繊維を摂取するのが理想とされています。
3. プロバイオティクスや流行の健康食品に頼りすぎない
プロバイオティクス(乳酸菌やビフィズス菌を含むサプリメント)や腸内環境を改善するとされる流行の商品については、確実な科学的根拠が不足しているため、過度な期待は禁物です。
Almeida氏は、「プロバイオティクスが腸内に定着するとは限らず、それらが本当に有益かどうかは疑問が残る」と述べています。
健康な腸内環境を維持するためには、食物繊維を意識したバランスの取れた食生活を続けることが鍵となります。
特定の食品やサプリメントに頼るのではなく、日常の食生活を見直すことが、腸内細菌の多様性を高め、健康な体を維持するための最善の方法といえるでしょう。
まとめ
・Faecalibacteriumが多い腸内は、有害な腸内細菌の割合が低いことが確認された
・Faecalibacterium は食物繊維をエサにするため、食物繊維の摂取が腸内環境の改善につながる可能性がある
・腸内環境を整えるためには、多様な食品を摂取し、バランスの取れた食事を心がけることが重要
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