セリアック病は、グルテン(小麦、大麦、ライ麦に含まれるタンパク質)に対する異常な免疫反応によって引き起こされる自己免疫疾患です。
この病気では、グルテンを摂取すると小腸の粘膜が損傷し、栄養の吸収が阻害されるため、消化不良や栄養不足を引き起こすことがあります。

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この疾患は、消化器系の不調だけでなく、皮膚の発疹、慢性的な疲労、関節痛、精神的な不調(うつ症状や不安感)など、多岐にわたる症状を伴うことが特徴です。
長期間適切な治療を受けずに放置すると、骨粗しょう症、貧血、神経障害、さらには消化器系のがんといった深刻な合併症を引き起こす可能性もあります。
現在のところ、セリアック病を根本的に治す治療法は存在しません。
しかし、適切なライフスタイルの管理と食事療法(グルテンフリー・ダイエット)を徹底することで、多くの患者が症状を抑え、心身に負担の少ない生活を送ることができます。
本記事では、セリアック病の症状、診断方法、治療法、食事管理、薬の使用、手術の可能性、そして生活の質を向上させるための具体的な対策について詳しく解説します。
セリアック病の症状

セリアック病の症状は人によって異なりますが、以下のような消化器系の症状が一般的です。
• 便秘
• 腹痛
• 腹部の膨満感
また、消化器系の症状以外にも以下のような影響が見られることがあります。
• 疲労感
• かゆみを伴う発疹や水ぶくれ
• うつ症状
治療をせずに放置すると、栄養失調、骨粗しょう症(骨がもろくなる病気)、貧血などを引き起こす可能性があります。(セリアックスプルーより)
主な治療としては、食事の管理に重きを置き、小腸の損傷を防ぐことが推奨されます。
グルテンの除去

セリアック病の管理にはグルテンを含む食品を避けることが最も重要です。(Coeliac disease ランセットより)
厳格なグルテンフリー・ダイエットを実践することで、数日から数週間で症状の改善が期待でき、小腸の回復にも役立ちます。
特に、以下のような食品は、グルテンを含むため注意が必要です。
• パン、クッキー、クラッカーなどの焼き菓子
• 全粒穀物を使った食品
• ビール(エール、ラガー、モルト飲料、一部のフレーバードリカー)
• 特定の食品着色料、添加物、でんぷん、増粘剤
• 一部のビタミン・ミネラルサプリメント
また、一部のヘアケア製品やスキンケア製品にもグルテンが含まれていることがあります。
すでにグルテン摂取による症状がある場合、グルテンを含むヘアケア製品の使用でも症状が悪化する可能性があります。(Eating, Diet, & Nutrition for Celiac Disease
より)
特に注意が必要な製品には、以下のようなものがあります。
• 化粧品
• 歯磨き粉やマウスウォッシュ
• 子供用のモデリングクレイ(粘土)
グルテンフリー食品の選択

多くの食品にはグルテンフリーの代替品があります。
例えば、グルテンフリーのパンやペイストリーが販売されています。
また、もともとグルテンを含まない自然食品を積極的に取り入れることも重要です。
【グルテンフリーの食品例】
• 牛肉
• 鶏肉
• 魚
• 米
• キヌア
• そば(グルテンフリーのもの)
• とうもろこし
• 大豆
• じゃがいも
ただし、リスボン大学らによる研究によると厳格なグルテンフリー食を完遂することは難しいことが分かっています。(New Developments in Celiac Disease Treatmentより)
また、関連する研究では、食事療法に同意したセリアック病患者の最大80%が、制限された食事の中でも微量のグルテンを誤って摂取していることも分かっており、可能であれば調味料や調理器具などの取り扱いにも注意が必要としています。
また、グルテンフリー・ダイエットでは、食物繊維、ビタミン、ミネラルの摂取が不足しがちなため、医師や栄養士などと相談しながら、栄養バランスの取れた食事計画を立てることが推奨されます。
薬による治療

現在、セリアック病を適応症として承認された治療薬はありません。(武田薬品 「ファースト・イン・クラスのセリアック病治療薬の開発について」より)
一部の医薬品にはグルテンが含まれていることがあり、服用すると膨満感、疲労、腹痛などの症状を引き起こす可能性があるため、上の項で示したようなグルテンを除去した食事が推奨されます。
【関連する疾患への処方薬】
セリアック病による皮膚のかゆみや水ぶくれ(皮膚性疱疹、DH)を抑えるために、Deltasone(プレドニゾロン)などのステロイド外用薬が処方されることがあります。
また、難治性セリアック病(グルテンフリー・ダイエットをしても症状が改善しない場合)では、Omnipred(プレドニゾロン)やEntocort(ブデソニド)といった経口ステロイドが使用されることもあります。
ただし、これらの薬は小腸の損傷を回復させるものではないため、根本的な治療には寄与しません。
サプリメントの活用
セリアック病による小腸の損傷は栄養吸収の障害(吸収不良)を引き起こし、長期的には栄養失調を招くことがあります。
血液検査によって、不足しがちな栄養素を確認し、必要に応じてサプリメントを摂取することが推奨されます。
【不足しやすい栄養素】
ビタミンB12
• 鉄
• 葉酸(ビタミンB9)
• ビタミンD
• 亜鉛
外科的手術と処置
長期にわたる栄養吸収障害による合併症を治療するために、外科手術や静脈栄養が必要になる場合があります。
セリアック病の治療として手術が行われることは極めてまれですが、セリアック病に関連する合併症のリスクが上がるため無視はできません。
【手術が必要な合併症】
• 腸閉塞:小腸の炎症により腸が詰まり、緊急手術が必要な場合がある
• 腸穿孔(腸に穴が開くこと):カメラを使った低侵襲手術で修復する
• 腸出血:内視鏡手術で止血を行う
• 腸関連のがん:セリアック病患者は、腸リンパ腫(非ホジキンリンパ腫の一種)のリスクが高まるため、腫瘍の摘出手術が行われることがある
まとめ
・セリアック病は完治しないが、グルテンフリー・ダイエットで症状を管理できる
・食事や日用品に含まれるグルテンに注意し、栄養バランスの取れた食事を心がけることが重要
・必要に応じて医師と相談し、サプリメントや適切な治療を受けることが推奨される
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