この記事では、著書“図鑑心理学”と自分が学んできた内容を参考に、歴史に影響を与えた心理学についてまとめていきます。
心理学が生まれる以前、心や精神とはどのようなものだったのかに始まり、近代の心理学までをテーマとして、本書から興味深かった内容を取り上げていきます。
今回のテーマは、「アローン・ベックのうつ病テスト」についてです。
アーロン・ベック
アメリカの精神科医アーロン・ベックは、うつ病の認知療法の創始者として知られている人物です。
米ロード・アイランド州に生まれ、幼い頃はジャーナリストを目指していました。
ブラウン大学を優秀な成績で卒業したことをきっかけに、ΦΒΚ(ファイ・ベータ・カッパ)協会のメンバーに選出され、その後は医学の道を志すようになりました。
ΦΒΚ協会は、リベラルアーツと科学の発展のため、1776年にウィリアム&メアリー大学によって設立された機関です。
就任したメンバーからは、17人のアメリカ大統領、42人の米最高裁判所判事、136人のノーベル賞受賞者を輩出しています。
1946年にベックは、イェール大学で医学博士の学位を取得し、フィラデルフィア精神分析研究所(Philadelphia Psychoanalytic Institute)にて精神分析を学びます。
1958年頃から、精神分析的な立場からうつ病の研究を始めました。
うつ病テスト( 抑うつテスト)
ベックの研究は、臨床心理学が時代とともにどのように発展してきたかを知る手助けにもなります。
ベックは、患者のために科学的なテストを考案し、診断結果に基づいて適切な治療に活かそうと考えていました。
イェール大学の医学部を卒業してから、1950年代の大半を精神分析家としての訓練に費やしたにもかかわらず、当初、アメリカ精神分析研究所には受け入れられませんでした。
理由は、彼が治療ではなく研究するためにデータを活用しようとしていることや、既存の治療方針から逸脱し、精神疾患の患者を治療するための新しい方法を学ぼうとしていたためでした。
現在の臨床心理学の基準からからすると、ベックのアプローチは、とりたてて画期的というほどではありませんでした。
しかし、1960年代初め頃の通説から考えると相いれないものだったようで、ベックによると「提唱した理論が認められるかどうかは、その理論を提唱した人の名声や評判によるところが大きい」と不満を述べています。
当時、指導的立場にある精神分析学家たちの多くは、批判や嫉妬から自分たちの考え方を守り抜こうと考えており、 理論を否定する者に対しては排他的な態度をとっていたことが分かります。
このため、心理療法の結果に関するさまざまな情報は収集すること自体が困難で、どの方法がうまくいってどの方法がうまくいかなかったのかという比較、検証することができなかったのです。
自身の研究を確かな科学的根拠のうえに成立させたかったベックは、「うつ病」に着目して心理療法を評価し始めました。
というのも、うつ病は彼の患者が共通して抱える問題だったからです。
彼は、うつ病が起こる原因は、感情が抑圧されていることや、それをうまく対処できないことだと考えていました。
そんな患者たちと接してる中で、自らを否定する言動にある共通点が見えてくるようになりました。
それは、自分が魅力的だとは思えていないことと、自分の行為や考えを述べる際、否定的な感情を含む言葉を使っていたことです。
ベックは、間題を自覚できているとはいえるものの、そのことが問題解決の障壁にもなっていると考え、これを“自動的思考”と呼びました。
合理的なアプローチ
これらを受けベックは、うつ病のための新たな療法を考案しました。
まず彼は、患者に自分の置かれた状況に対して、自ら合理的な評価をするように求めました。
合理的な評価が、患者の感情的な思考(動的思考)といかに異なるかを比較させようとしたのです。
ベックは、うつ病には何らかの原因があるかもしれないが、問題は患者がそれをどう自覚するかであり、それが治療に求められているという考えを持っていました。
原因を追求して解決するよりも、本人自身の考え方を変えていこうとしたのです。
事実、患者が持つ主観的でネガティブな思考がどれだけ合理的でないかを自覚したことで、うつ病患者の症状を軽くすることができました。
ベックの治療法は、うつ病やそれに関係する心身機能の不調を調べるためのテストの開発によって、大きな進歩を遂げました。
このテストは、患者にさまざまな質問に0点から3点で評価するアンケート式の評価シートで、得点に応じてうつの状態を調べるというものです。
これら標準化されたテストによってうつ病の深刻度が診断できるようになり、現在でもベックうつ病尺度(BDI)や、ベック絶望感尺度(BSH)、ベック不安尺度(BAI)などとして活用されています。
いい人だからうつになる
アーロン・ペックがうつ病の治療で有名になった時期を同じくして、ドロシー・ロウ・ノルト(1924~2005年)というオーストラリアの心理療法家が「なぜうつ病になるのか」という問に向き合っていました。
彼女は、「 基本的によい人だけがうつ病になる」と考え、正直者が馬鹿を見る社会がそもそもの原因であると主張しました。
ある人が、世界は公平で、正しく生きていれば、いつか自分にとってよいことが起こると考えていたとします。
しかし、実際にはそうもいかず、真面目に働けども生活は良くならず、一部の裕福な者達が至福を肥やし、貧乏であればさらに貧困する……。
そしてその人は、善く生きてきたが故に、「自分が何か悪いことをした罰である」と考えるのです。
その結果、自分を責め、それがうつ病を引き起こす主要な原因だというのです。
ロウが提唱した解決法は、“世界観を変えることを自ら選ぶ”という方法でした。
私たちは、この世界は公平でも何でもないのだと、自由に理解することが可能です。
不幸なことが起こったとしても、その理由については合理的に判断をして、自分を責めるのではなく、コントロールできない世界を責めることも必要だということです。
自分で抱え込んで破滅するよりは、「今回はタイミングが悪かったな」などと解釈し、さっぱり諦めるのも心を守るためには必要ということですね。
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まとめ
・「理論を提唱した人の名声や評判によって理論の正しさが変わる」という風潮に疑問を持ったベック
・うつ病患者と接していると、自らを否定する言葉に共通点があった
・ベックはそれらの症状と統計を基に、うつ病患の度合いを判断するテストを考案した
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