年齢に比例して有病率が上がっていく認知症(アルツハイマー病)。
どういうわけか男性よりも女性の方が認知症になりやすいことが分かっており、95歳を過ぎると男性の51%、女性の84%に症状が現れるそうです。
女性の有病率が多い理由として、女性が男性よりも長生きする傾向にあることや、何らかのホルモンが関係すると考えられています。
今回紹介するのは、そんな女性にアルツハイマー型認知症が多い理由に迫った研究についてです。
2つの研究によると、卵巣ホルモンとも呼ばれているエストロゲンが関係している可能性が示されました。
以下にまとめていきます。
参考記事)
・Alzheimer’s Is More Common in Women, And This May Help Explain Why(2024/04/07)
参考研究)
・Early modulation of the gut microbiome by female sex hormones alters amyloid pathology and microglial function(2024/01/21)
・Sex-specific effects of microbiome perturbations on cerebral Aβ amyloidosis and microglia phenotypes(2019/05/16)
エストロゲンとアミロイドβ
シカゴ大学によるマウスを使った研究では、アルツハイマー病の原因の一つとして、ホルモンと腸内細菌叢(簡単にいうと腸内環境)の相互作用が大きく関係している可能性を発見しました。
女性ホルモンのエストロゲンレベルが高いマウスは、アルツハイマー病の特徴であるアミロイドβタンパク質の蓄積が高く、エストロゲンの生成を阻害すると脳組織で観察されるアミロイドβの沈着が減少したことが示されました
また、アルツハイマー病様疾患を発症するように飼育されたメスのマウスの腸内細菌叢を抗生物質で破壊したところ、血中のエストロゲン濃度が急激に上昇したことが分かりました。
さらに、卵巣のないマウスにホルモンレベルを回復するためにエストロゲンサプリメントを投与したところ、腸内細菌の構成の変化も観察されました。
過去の研究では、抗生物質によるアミロイドβの沈着の減少が、オスのマウスのみ効果があることが示されていることも考慮すると、エストロゲンが病状のメカニズムに重要な役割を果たしている可能性が高いことが考えられています。
これはおそらく、腸内細菌叢が生み出す混合物がエストロゲンの分泌に関係していることが原因と推測でき、シカゴ大学の神経生物学者サングラム・シソディア氏は、「エストロゲンがアルツハイマー病の病理に見られる変化の要因であるようだが、それに伴い腸内細菌叢も変化していることが分かった」と述べています。
同じ研究者による別の研究では、オリゴマン酸ナトリウム(GV-971) と呼ばれるアルツハイマー病の治療薬(候補)をマウス与えた変化を分析しました。
分析によると、GV-971はアミロイドβの沈着の減少とオスのマウスの腸内細菌叢の変化にのみ効果があり、メスのマウスには効果が見られなかったことを報告しています。
これについても、腸内微生物叢と関連してエストロゲンの現象に大きな影響が見られなかったことから、エストロゲンがアルツハイマー病に何らかの形で関連していることが示唆されていると言えます。
アルツハイマー病は多くの人が発症する可能性のある病気ですが、発症のプロセスなどは未だに不明です。
アミロイドβタンパク質がアルツハイマー病の原因であるのか、それとも何らかの結果によってタンパク質が蓄積されていくのかすら判明していません。
しかしアルツハイマー病の患者の脳には多くのアミロイドβが沈着していることは事実です。
今回の研究では、早い段階でエストロゲンの源を取り除くとアミロイドの沈着が消失することが分かり、これは非常に驚くべきことです。
さらに研究が進めば、アルツハイマー病をより効果的に治療したり、今までの治療をより効果的にする可能性があります。
もちろん、人体が生成するホルモンであるエストロゲンを止めることは健康的な選択肢ではありません。
だからこそ研究者らは、起こっている可能性のある化学反応をより詳細に調べて、アルツハイマー病と腸がどのように関係しているのかをさらに解明したいと考えています。
今回の二つの研究はScientific ReportsおよびMolecular Neurodegenerationにて確認することができます。
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