何億年と続く生物の歴史の中で、人類生まれてきたのはほんのわずかな時間しかありません。
古生代の何億年という歴史に比べたら、現生人類であるホモ・サピエンスは古くても40万年程度の歴史の中で歴史を紡いできました。
そんな人類の科学が発展したのはごく最近。
そのわずかな間で私たちは、科学に守られた生活を送るようになってきました。
その中でも特に影響を受けたと言えるのが、生物の栄養を司る器官“腸”です。
腸は書いて字の如く細菌の巣窟であり、それら菌によって栄養の吸収効率が上がったりホルモンのバランスに影響を与えたりします。
つまり、腸内環境を整えることが健康に大きく関わるということです。
そんな腸に生きる微生物ですが、都市部に住んでいる人と田舎に住んでいる人を比べると、都市部の人たちは腸内の微生物の多様性が少ないことが明らかになっています。
今回のテーマは、そんな都市部に住む人の腸内の異変についてのお話です。
参考記事)
・Humans Living in Cities Are Slowly Losing Their Ability to Digest Plants(2024/03/19)
参考研究)
・Cryptic diversity of cellulose-degrading gut bacteria in industrialized humans(2024/03/15)
都会人に少ない腸内細菌
イスラエル、ネゲヴ・ベン=グリオン大学をはじめとする国際研究チームは、人間の腸内に潜み、セルロースを分解できる未知の微生物を発見しました。
セルロースは植物(主に細胞壁)を構成する成分であり、食物繊維とも言われています。
水に溶けない不溶性食物繊維とされ、大豆やごぼうなどの野菜に多く含まれています。
セルロースは牛、馬、羊、その他の哺乳類の腸内では分解や吸収が可能とされますが、長い間、人体では分解できないと考えられていました。
2003年ごろの研究によって、人類の腸内にも繊維を消化できる細菌がいることが発見されてから、腸内細菌の多様性が人の消化吸収に大きく影響されることが分かっています。
今回の研究では、それらの細菌の遺伝子と様々な時代(地域も含め)の糞便のサンプルをもとに、セルロースを分解できるような性質の腸内細菌を探しました。
その結果、研究者が予測していたよりも、そういった腸内細菌が存在していることが分かりました。
発見された3つの腸内細菌はすべてがルミノコッカス属に属しており、この種の細菌はセルロースを分解することができます。
特にこれら細菌が多かったのは狩猟採集民族や農村部の住民、そして1,000〜2,000年前に生活していた古代人の糞便サンプルからでした。
一方、現代の都会に住む人々では、同じ腸内微生物が著しく少ないことが分かりました。
イスラエルのネゲブ・ベングリオン大学の微生物学者サラ・モライス氏ら研究者は、「これら人間の腸内のルミノコッカスの種が減少していることは、西洋化されたライフスタイルの影響だろう」と述べています。
精製された小麦(や米)など西洋の近代化された食事は繊維が著しく不足しています。
食物繊維の少ない食べ物の摂取が習慣化されることによってルミノコッカス属のエサ(食物繊維)が減り、そういった細菌が減少すると推察されています。
また、これら特殊な腸内細菌はヒトの進化した過程で減少してきたものとも考えられています。
この可能性にはまだ研究の余地がありますが、研究者らは、「栄養補助食品や特定のプロバイオティクスを通じて、人間の腸内のこれらの種を意図的に再導入または強化する可能性がある」と考えています。
こういった腸内細菌の研究はかなり未開拓の分野であり、その根底にあるメカニズムはほとんど謎です。
今回の研究は、人間の腸が健康に重要な役割を果たしている可能性があるというてんいおいて重要な可能性を見出すとともに、人類の歴史における腸という臓器の謎を解明する手がかりになると期待されています。
この研究は、Scienceにて詳細を確認することができます。
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